2019年08月12日

オリンピック関連登録商標の異議申立と違法ライセンス疑惑の狭間で(9):『五輪』異議申立の理由1について

 暑苦しい夏を『趣味:知財、特技:知財』で乗り切ろうとしていますが、
 結局、ソーメン頼みの日々を送っております。

 今回は、私が行った『五輪』商標登録に対する異議申立の
 最初の異議理由1を説明します。

 『五輪』は、以下の二つの審査基準:
 @2016年4月1日以前に運用された旧審査基準
 A2016年4月1日から実施された改訂審査基準
 に基づき登録され得ることを説明しました。
http://patent-japan-article.sblo.jp/article/186339486.html
http://patent-japan-article.sblo.jp/article/186400151.html

 『五輪』については、
 もともと「旧審査基準」に基づいて登録できるところ、
 さらに 屋上屋を架すがごとく改訂審査基準を制定することは、
 それ自体何か他に意味があるのではと邪推してしまうのですが、
 今更、改訂前の旧審査基準に基づき審査もできないということで、
 特許庁は『五輪』を改訂審査基準の下で審査した、
 と考えて構わないと思います。

■復習
(1)商標法4条1項6号(不登録事由)
  「次に掲げる商標については、・・・商標登録を受けることができない。
   @国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、
   A公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は
   B公益に関する事業であつて営利を目的としないもの
   を表示する標章であつて著名なものと同一又は類似の商標

   (丸囲み数字は私が付しました)

   改訂審査基準では、
   IOCが行うスポーツ興行「オリンピック」は、
   Bの「公益に関する事業であつて営利を目的としないもの」
   (以下「非営利公益事業」と言います)に該当すると解釈されます。

   標章『オリンピック』が、
   IOCのスポーツ興行「オリンピック」を表示する著名な標章である
   ことは自明です。

   改訂審査基準では、さらに、「オリンピック」を表示する標章には、
   正式標章である『オリンピック』に加えて、
   『オリンピック』を想起させる俗称『五輪』も含める、
   と解釈します。

   以上から、『五輪』は、商標法4条1項6号のBの商標に該当し、
   本来(例えIOCが出願したとしても)、
   商標法4条1項6号に基づき商標登録を受けることができません。

(2)商標法4条2項(不登録事由の例外事由)
  「@国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、
   A公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は
   B公益に関する事業であつて営利を目的としないものを行つている者
   が前項第六号の商標について商標登録出願をするときは、
   同号の規定は、適用しない。
」(丸囲み数字は私が付しました)

   関係のあるBについて噛み砕いていえば、
   非営利公益事業者が商標法4条1項6号の商標を出願した場合は、
   当該商標に商標法4条1項6号を適用しない
、ということです。

   従って、商標法4条2項によれば、
   非営利公益事業者たるIOCが『五輪』を出願したら、
   商標法4条1項6号を適用しないで救済する、
   ということになります。

   『五輪』出願当初、JOCが出願するならわかるが、
   何故IOCが出願したのだろうと訝しがる向きが結構ありましたが、
   上記のような理屈で、
   『五輪』はIOCによって出願されて登録された訳です。

■前提事項
 ここで、異議理由1を考える上で重要な前提事項を抑えておきます。

(1)審査基準とは何か
   商標法は、特許庁に、
   出願商標が商標法4条1項6号に該当する場合は
   拒絶しなければならない、と規定しています。

   しかし、商標法4条1項6号には、
   Aの「非営利公益団体」やBの「非営利公益事業」の定義がなく、
   これらを「表示する標章」についての説明もありません。

   そこで、法律に従って審査しなければならない特許庁は、
   特許庁として、
   「非営利公益団体」「非営利公益事業」「表示する標章」
   を具体的にどのように解釈して審査を行うかを、
   審査基準として公表して、
   審査の円滑な運用と公平性を確保するわけです。

   従って、審査基準とは法律ではなく、何の拘束力も有しない
   特許庁の内規に過ぎません。
   (民間企業の社則のような法的効果は一切ありません)。

   ですから、出願人が審査基準が不当だと考えれば、
   審査でその旨主張できますし、特許庁が納得しなければ、
   裁判で特許庁の解釈の当否として争うこともできます。

(2)商標法4条2項は審査基準の対象でない
   私が『五輪』出願当初に連載したブログ記事を書いたときに、
   初めて知って驚いたのですが、
   商標法4条2項は、審査基準に掲載されておらず、
   従って、審査基準の対象となっていないのです。

■異議理由1
 私が行った異議申立の異議理由1は、
 登録商標『五輪』は、
 商標法4条1項6号に該当するので登録を受けられず
 取消されるべきだ、という内容です。

 言い換えると、
 登録商標『五輪』は商標法4条2項が適用されず、
 商標法4条1項6号に該当する状態を救済できないということです。

 理由は以下の通りです。

(1)商標法4条2項は審査基準の対象ではないので、
   商標法4条2項は条文通りに解釈するべきです。

   従って、商標4条2項が引用する「前項第六号の商標」
   (商標法4条1項6号の商標)も条文通りに解釈されるべきです。

   商標法4条2項では、
   商標法4条1項6号の「表示する標章」とは、
   IOCが行うスポーツ興行「オリンピック」においては、   
   本来の正式標章である『オリンピック』であって、
   特許庁が不登録事由の対象として解釈して含めたに過ぎない、
   『オリンピック』を想起させる俗称『五輪』を含めるべきではない
   ということです。

(2)前回、改訂審査基準に従った『五輪』登録の理屈には
   トリックがあると指摘したのはこの点です。

   商標法は、公益的観点から、公益著名商標については、
   何人にも登録させないという不登録事由を、
   商標法4条1項6号として規定しました。

   商標法は、さらに、これも公益的観点から、
   公益著名商標については、
   それを表示する非営利公益事業者が出願する場合に限り、
   商標法4条1項6号を適用しないという、
   不登録事由の例外事由を商標法4条2項として規定しました。

   商標法4条1項6号と商標法4条2項とは、独立に立法されていて、
   商標法4条1項6号での不登録事由の対象となる商標と、
   商標法4条2項で不登録対象の商標のどの商標を救済するかは、
   一致している必要はありません。

   また、商標法4条1項6号で不登録事由の対象となる商標は、
   特許庁の解釈によって「想起させる俗称」まで拡大されたにすぎず、
   法上はあくまで本来の正式標章である『オリンピック』です。

   従って、
   商標法4条1項6号での不登録事由の範囲を解釈で拡大すれば、
   商標法4条2項の救済の範囲も自動的に拡大するという、
   何の根拠もないことを、暗黙裡に行っているところが、
   極めて巧妙なトリックである所以ということになります。

******

 というわけで、改訂審査基準は、どうみても露骨なまでに、
 『五輪』をIOCに登録させるために整備された
 としか見えないのですが、逆にIOCの馘を締めてしまった
 ということになるのではないでしょうか。

 特許庁の名誉のために一言申し上げますが、
 私も特許庁による資格試験に合格して弁理士になり、
 特許庁の審査官とは出願等の手続を常時させていただいており、
 特許庁の官僚の実力は重々承知しており、
 はっきり申し上げて、改訂審査基準のようなおかしな改訂を
 優秀な特許庁の官僚が積極的に行ったとは思っていません。

 改訂審査基準の経緯をみると、改訂内容は、
 有識者会議での議論の前に作成されており、
 有識者もほとんど実のある審議をしないまま通過し、
 このような改訂経緯の下で決まった内容で審査しなければならない
 現場の審査官はさぞや不本意であろうと思わざるをえません。

 このあたりは、異議理由2の説明で突っ込んでいこうと思っています。
posted by Dausuke SHIBA at 10:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 五輪
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