2019年07月21日

オリンピック関連登録商標の異議申立と違法ライセンス疑惑の狭間で(6):『五輪』商標登録に対して異議を申し立てた理由

 私は、登録商標『五輪』の商標権者であるIOCに対して、
 権利侵害しているわけでもなく、
 お互いに私的に恨みを抱きあっているわけでもないので、
 そのような理由から、
 『五輪』商標登録にケチをつけようとしているわけではありません。

 弁理士という商標制度を基礎に顧客にサービスをする専門家として、
 『五輪』を商標登録することは、商標制度から逸脱し、
 ひいては商標制度を始めとする知的財産制度を利用する
 様々なユーザーに対して不利益になる、
 という大所高所の上から目線の観点から、
 商標登録異議申立(以下「異議申立」)という商標法に規定された、
 何人も利用できる制度を選んだわけです。

******

 異議申立を受理した特許庁が、私の主張を参考にして、
 『五輪』商標登録を維持することは妥当ではない、と判断すれば、
 『五輪』商標登録は取消され最初からなかったことになります。

 『五輪』商標登録を取消したり無効にしたりすることは、
 「異議申立」の外に、
 「取消審判」と「無効審判」を請求して行い得ますが、
 私があえて「異議申立」制度を利用したのには訳があります。

■商標登録取消審判について■

 登録商標を商標権者等が3年間商標として使用しなかった場合、
 登録商標が商標権者等に不当使用された場合に、
 その登録商標の取消の請求をすることができます(商標法50〜55条)。

 しかし、『五輪』は登録されてまだ1年経っておらず、
 そもそもIOCも積極的に『五輪』を使用しているわけではなく、
 不当使用した実績があるわけでもないので、
 取消審判を請求する理由がなかなか見つけ難いという事情があります。
 
■商標登録無効審判について■
 登録商標に係る商標権は、
 登録商標を独占排他的に専用できる権利ですので、
 商標権者以外の他人が、登録商標を商標権者に無断で使用すると、
 商標権者から、商標権の侵害として侵害裁判を提起され、
 その登録商標の差止めや損害賠償請求を要求されえます。

 侵害裁判でその登録商標の使用を差止める判決が確定すると、
 その他人は登録商標を使用できなくなり事業に大きな打撃を受け得ます。

 そこで、その他人(=侵害被疑者)は、
 商標権者との侵害裁判を闘うために、その登録商標を無効にすべく、
 特許庁に無効審判を請求することができ(商標法46条)、
 特許庁が、無効審判の請求が妥当だと判断すれば、、
 その登録商標は遡及消滅して最初からなかったことになり、
 侵害を免れることができます。

 このように、無効審判は、登録商標を巡り利害関係を有する、
 商標権者と侵害被疑者の闘いの道具として、
 侵害被疑者が利用できる制度と捉えることができ、
 商標権が設定登録されて以降、商標権が消滅した後も、
 特許庁に請求することができます。

 その代わりに、無効審判は、
 商標権者から警告されているとか、差止請求されているとか、
 損害賠償請求を受けているとか、
 請求人が、商標権者と利害関係を有していなければなりません。

 冒頭で説明したように、
 私はIOCと利害関係がある訳ではありませんから、
 やはり、無効審判を請求するのは無理があるということになります。
 ******
 なお、全く請求不可というわけではなく、以下の点を考慮すれば、
 私でも無効審判を請求するこごができるかもしれません。

 例えば、私自身が『五輪』を商標登録出願すると、
 審査では、IOCの登録商標『五輪』を先行登録商標として挙げられ、
 私の出願商標『五輪』が拒絶理由を有する状態になります。

 その場合、私は、
 出願商標を登録するのにIOCの登録商標が邪魔であるので、
 IOCと利害関係を有することになり、無効審判を請求しうる、
 ということになります。

 しかし、そうなると、
 私も本気で『五輪』を商標登録しようと思っているわけではないので、
 無効審判請求するために手間と費用をかけ、
 精神的にも何となく負い目をもちながら、ということになり、
 やはり無効審判を胸張って請求し難いですよね。

■商標登録異議申立について■
 今回、私が特許庁に申し立てた商標登録異議申立では、
 特許庁の行政処分である、
 特許庁の審査の結果としての商標権の設定登録が不当であるとして、
 行政処分に対して異議を申し立てることができます(商標法43条の2)。

 特許庁は、工業所有権逐条解説(例えば、第20版)で、
 以下のように説明します。
 「登録後の異議申立制度は、
  商標登録に対する信頼を高めるという公益的な目的を達成するために、
  登録異議の申立てがあった場合に
  特許庁が自ら登録処分の適否を審理し、
  瑕疵ある場合にはその是正を図るというものであって、
  無効審判制度のように、
  特許庁が行った登録処分の是非を巡る
  当事者間の争いを解決することを目的とするものではない。」

 つまり、異議申立は、特許庁が自らの審査結果に対して、
 不備があると思う人あれば応募してくれ、として、
 異議申立したい人を公募して、誰でもその公募に応じることができる、
 という制度で、IOCに対して何か因縁をつけるわけではないので、
 ある意味、気楽に申し立てることができるということになります。

 ******

 但し、特許庁による公募という性格のため、そのためだけに、
 商標権をあまり長期間にわたり不安定な状態に置くわけにいかないので、
 無効審判のようにほぼいつでも申し立てることができるわけではなく、
 商標掲載公報の発行日から2月以内しか申し立てることができません。

 従って、私は、登録商標『五輪』が商標掲載公報に掲載された
 2019年2月26日から2月以内である
 2019年4月9日に異議申立を行いました。

 異議申立は誰でも申し立てることができるので、
 弁理士である私自身が申し立てました。

20190409商標登録異議立書(特許庁受理印).jpg

 ******

 商標登録異議申立は登録商標の指定商品・役務の区分毎にできますが、
 3000円+区分数×8,000円 の費用がかかります。

 登録商標『五輪』は、指定商品・役務の区分数が22あるので、
 全区分に対して異議申立をすると、17万9000円かかるので、
 今回は、第41類と第35類の2区分だけ申し立てしました
 (申立費用は19000円)。

 ちなみに、
 第41類は「スポーツの興行の企画・運営又は開催」を含む、
 登録商標『五輪』の本命の役務であり、
 第35類は、『五輪』を想起させる他人の先行登録商標の役務である
 「酒類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」
 「菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」
 が含まれるために選択しています。

 それでは、次回から、私が申し立てた法的な異議理由を解説します。

 違法ライセンスの話以上に頭の体操になると思いますので、
 楽しみにして下さい。
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