2019年07月07日

オリンピック関連登録商標の異議申立と違法ライセンス疑惑の狭間で(5):IOCファミリーによるアンブッシュ・マーケティング規制の不毛

 これまでの連載で、IOCファミリーのオリンピック関連商標の、
 権利化及びライセンス活動の抱える問題点について、
 法上、論理的に通さなければならない理屈の検討は一段落しました。
連載第1回http://patent-japan-article.sblo.jp/archives/20190420-1.html
連載第2回:http://patent-japan-article.sblo.jp/archives/20190421-1.html
連載第3回:http://patent-japan-article.sblo.jp/article/186207499.html
連載第4回:http://patent-japan-article.sblo.jp/article/186211152.html


 ここまで、硬く長々しい理屈っぽいお話にお付き合いいただき、
 ありがとうございました。

 これから、話を『五輪』登録異議申立の方に移していきますが、
 今回は息抜きに、これまで語ってきた問題点をまとめておきます。

■IOCファミリーによる違法ライセンスの現状■
 IOCファミリーによるオリンピック関連登録商標の違法ライセンス問題は、
 2019年3月10日に弁理士会誌『パテント』の私の論文が公にされ、
 2019年3月20日の参院法務委員会で小川議員により国会で質疑され、
 2019年3月28日、4月12日、4月14日の東京新聞で報道され、
 この動きに触発されたであろう商標法のライセンス禁止条項を削除する
 改正商標法が2019年5月27日に施行されるという事態に発展しました。

 そして、この改正商標法の施行に合わせて、特許庁が、
 「公益著名商標に係る通常使用権の許諾が可能となります
 と、関係者にアピール声明を発信しました。
https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/seidogaiyo/koeki_chomei.html

 この、実に正直な声明により、
 改正商標法の施行前になされた「公益著名商標に係る通常使用権の許諾」行為、即ち、IOCファミリーが長期間、大規模に展開した、
 オリンピック関連登録商標(公益著名商標)のライセンス(通常使用権の許諾)活動は違法であったことが明確になりました。

 なお、特許庁の名誉のためにフォローしますが、
 特許庁の上記声明は、決してIOCファミリーに向けたものではなく、
 NPO/大学法人等の小規模の非営利公益団体に向けたものです。

 従前、特許庁の指導もあり、小規模の非営利公益団体は、
 自らの商標が公益著名商標にならないように努力して商標登録しており、
 結果的に、IOCファミリーのような違法ライセンスを
 大手を振ってしてこなかったので、今頃は、特許庁の上記声明を、
 しみじみと味わっていることでしょう。

 特許庁も、小規模の非営利公益団体と同様に、
 IOCファミリーに対してもライセンスできないことについて
 指導しておけばよかったということにはなりますが、
 できなかった何か深い事情があるのかもしれません。

 ******
 
 なお、連載第4回では、改正商標法は、
 施行前に成立した商標権に基づくライセンス契約に遡及して、
 違法であったライセンス契約が施行後に合法化されることはない、
 ということもお話ししました。

 従って、これまでお話ししてきた違法ライセンス問題は、
 改正商標法の施行後も、実質何も解決していないということになります。

 その状況を図解しておきました。
 図中のワールドワイドパートナーとローカルパートナーは、「大会ブランド保護基準」(http://patent-japan-article.sblo.jp/article/186244252.htmlから引用しています。
20190707契約関係相関図.jpg
 さらに、この状況の背景に、
 関係者のどのような契約関係があるのかもまとめておきました。
20190707契約関係相関図.jpg

■IOCファミリーを縛る法的状況■
 一応、上記2枚の図の解説をしておきます。

ライセンス活動と移転の制限
 改正商標法の施行日前に登録された、
 IOCファミリーの著名な登録商標の多くは、以下の条項の下で、
 ライセンス活動や商標権の移転がが強く制限されています。
(a)商標権の通常使用権の許諾の禁止(旧商標法31条1項但書)
(b)商標権の専用使用権の設定の禁止(商標法30条1項但書)
(c)商標権の譲渡の禁止(商標法24条の2第2項))
(d)商標権の一般承継の制限(商標法24条の2第3項)
 これらが、IOCファミリーのライセンス活動を以下のように制限します。

東京都・スポンサー企業・大会ボランティア等に対するライセンス
 これらへのライセンスは、有償・無償問わず違法であり、
 これらのライセンシーは商標権侵害罪の状態に置かれます。
 ライセンサーもライセンシーも、
 ライセンスが違法であることを知っているので
 商標権侵害は故意とされる可能性が高く、
 それだけで悪質と言われても仕方ありませんが、
 ライセンサーは詐欺罪に、
 ライセンサーとライセンシーが共謀罪に問われる可能性があります。

サブライセンス
 東京都及びスポンサー企業の一部は、さらに、
 関連組織・企業にサブライセンスしていると思われますが、
 サブライセンスは、ライセンシーが、
 商標権者から専用使用権を設定されていないとできません。しかし、
 「公益著名商標」に対する専用使用権の設定は禁止されているので、
 これらのサブライセンスも違法となり、
 サブライセンシーも商標権侵害罪に置かれることになります。

譲渡の制限
 IOCファミリーの著名な登録商標の中で、
 組織委員会が出願人で商標権者となっている登録商標が多くありますが、
 これらは、例えば、IOCに譲渡できません。
 さらに、組織委員会とIOCとは、
 商標権を一般承継によって移転し合う関係にないと考えられます。、

 そうであれば、組織委員会が出願人となって商標権を取得してしまうと、
 2020年大会終了後に予定されている
 組織委員会からIOCへの譲渡ができなくなってしまいます。
 
 組織委員会はJOCと東京都が共同出資しており、
 公益財団法人ですから、多額の税金が直接・間接に投入されています。
 組織委員会の有する商標権は公益的財産で、私物ではありません。
 譲渡禁止条項を無視して商標権を組織委員会がIOCに譲渡すれば、
 組織委員会の公益的財産である商標権が、
 単なる私的団体にすぎないIOCに違法に譲渡されることになるので、
 極めて大きな問題となります。

IOCファミリーの登録商標の無効性
 連載第3回でお話ししたように、IOCファミリーの登録商標のうち、
 組織委員会及びJOCが出願人となって登録を受けたものは、
 4条1項6号(公益事業を表示する商標は公益事業者にのみ登録を許す)
 に違反するので無効であると思われます。

 何故なら、組織委員会及びJOCは、IOCの下請又はエージェンシーに過ぎず、オリンピック競技大会を表示する商標は、当該大会を行うIOCだけにしか登録され得ないからです。
 

■IOCファミリーによる
 アンブッシュ・マーケティング規制の不毛■
 IOCファミリーによるアンブッシュ・マーケティング規制に
 興味をお持ちの方は、友利昴氏の著書
 『オリンピックVS便乗商法 まやかしの知的財産に忖度する社会への警鐘』
 (作品社)を一読することをお奨めします。
 http://www.sakuhinsha.com/politics/27266.html
 https://twitter.com/s_tomori?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor

 アンブッシュ・マーケティングとはそもそも本来どのようなものだったのか、
 IOCがそれを自らのオリンピックビジネスにどのように利用したのか、
 等について、歴史的・事実検証的に詳細に面白く論じられています。
 私も共感するところが非常に多く興味深く読むことが出来ました。

アンブッシュ・マーケティング規制とは
 アンブッシュ・マーケティングとは、
 オリンピック競技大会開催に合わせて、IOCに無許諾で行われる、
 当該大会を想起させて開催に便乗して行われている、とIOCが認定した、
 IOC以外の企業・個人によるマーケティング活動を言います。

 IOCファミリーによるアンブッシュ・マーケティング規制は、
 個人が善意でオリンピックに共感して行うSNS上の行為にまで、
 IOCが、その基準もはっきりさせずに、
 勝手にアンブッシュ・マーケティングであると認定して、
 裁判も辞さずという強権をちらつかせながら差止警告してくるので、
 オリンピックへの共感もすっかり水を差されて冷めてしまうという、
 非常に評判の悪いIOCファミリーの問題活動です。

 ******

 アンブッシュ・マーケティング規制は、
 @知的財産権又は肖像権等の裁判例の蓄積に基づく権利
  の侵害に対する差止警告と、
 A法的権利に基づかないIOCファミリーの独自認定による差止警告
 との2つが内包されています。

 IOCファミリーはあえて区別せずにごちゃまぜにして説明するため、
 サラーっとその説明を読んだり聞いたりしただけでは、
 いかにもIOCが合法的かつ正当に規制しているように見えてしまいます
https://tokyo2020.org/jp/copyright/data/brand-protection-JP.pdf
 しかし、@Aは以下のように区別して把握すべきです。

 @は、IOCファミリーに限らず、権利を有する者であれば、
 その差止警告は法上正当であるので、差止警告を受けた者は、
 真剣に受け止めて対応しなければなりません
 (その場合は、私に相談して下さい)。

 Aは、IOCファミリーの言いがかりにすぎず、
 IOCが差止警告の対象とした行為は、要は合法ですから、
 差止警告を受けた者は無視すればよいのです
 (この場合も心配な方は、私に相談して下さい)。

 しかしながら、私の連載をここまでお付き合いいただいた方には、 
 @Aのどちらにしても、
 違法行為を長期間、大規模に行っているIOCファミリーが、
 アンブッシュ・マーケティング規制と称するいい加減な差止警告を、
 いったいどの口で言えるのか、盗人猛々しいとはこのことだ、
 という感慨をもたれるのではないかと思いますし、その思いは真っ当です。

アンブッシュ・マーケティングは本来的に合法である

 欧米の大企業によるアンブッシュ・マーケティングが活発になされ、
 IOCの目障りになったことには、IOCの自業自得のところがあります。

 オリンピック関連登録商標等のオリンピック資産のライセンスを、
 IOCは、一業種一社に限定してライセンスしました。
 これは、オリンピック資産のライセンス料が高額になるように、
 IOCが仕組んだことです。

 そのため、ライセンスを受けたスポンサー企業(世界的大企業)に対して、
 ライセンスを受け損なった競合企業(こちらも世界的大企業)は、
 ライセンスなしに、しかし「合法的」に、
 オリンピック現象を活用してマーケティングすることを試みる、
 というのがアンブッシュ・マーケティングです。

 競合企業に、ライセンスを受けずにオリンピック現象を利用して、
 効率よく商売をされては、
 高額なライセンス料を支払うスポンサー企業が面白い筈がなく、
 IOCはスポンサー企業のためにその規制をせざるをえなくなった
 (自業自得)ということになります。

 ******

 上記したように、アンブッシュ・マーケティングは、
 欧米の世界的な大企業が仕掛けているので、
 違法にならないように、合法的に行われましたから、
 IOCが差止警告しても次第に無視され、
 IOCも合法活動に対して裁判は起こせないということになりました。

 そこで、IOCは、アンブッシュ・マーケティングに対して、
 猛烈なネガティブ・キャンペーンを行い、結局それが成功して、
 現在は、「アンブッシュ・マーケティング」は不正な商行為のように
 世間に受け取られるようになってしまったというのが経緯です。

 知的財産の専門家からみると、上述したように、
 法的にはほとんどナンセンスな規制であり
 (@は通常の知財制度の範疇の話で、Aは法的に意味がない)
 その上、IOCファミリーが違法ライセンスしていることを考慮すれば、
 逆に、IOCファミリーが権利濫用で訴えられても不思議でないくらいです。

我国ではアンブッシュ・マーケティングの前提が存在しない

 2020年東京大会では、IOCファミリーにライセンスを受けたライセンシーは、ライセンス料に応じた階層に分かれていますが、
 全階層に目を通せば、一業種一社の原則がほとんど崩れています。

 特に、メディアは「読売」「朝日」「毎日」「日経」「産経」「北海道」
 がスポンサー企業として相乗りしています。
 これでは、非スポンサー企業としてアンブッシュ・マーケティングを仕掛けて
 互いに出し抜く必要がないということになります。

 また、NHKはスポンサー企業に入っていないのですが、
 オリンピック関連登録商標を明らかに商標的に使用しています。
http://www.nhk.or.jp/tokyo2020/
 協賛金を払わずに、無償でライセンスを受けているのでしょうか?
 さらに、TV各局は系列の新聞社から、
 サブライセンスを受けているのでしょうか?(それは違法ですが)

 これでは、IOCファミリーの違法ライセンス問題など、
 東京新聞以外の各社が競って報道することなどあり得ず、
 新聞社にとっては、使用の自由を守り抜かなければならない筈の、
 IOCによる『五輪』登録に対して客観報道に徹してしまう等、
 IOCの報道機関化しているとしか思えません
 (それでもジャーナリズムの端くれか、少しは恥を知れ! 
 と言いたくなりますが)。
 
まとめ
 以上のように、IOCファミリーによるアンブッシュ・マーケティング規制は、
 あまりに次元の低い、我国の社会に何ら寄与しない不毛な行為です。

 我国でアンブッシュ・マーケティング規制を集中的に行う組織委員会は、
 東京都が半額を出資する公益財団法人で、
 高額な税金が直接・間接に投入されていることに鑑みれば、
 納税者自身を敵に回しかねないような、
 不毛なアンブッシュ・マーケティング規制など即刻中止して、
 違法ライセンス問題に真剣に向き合うことが筋というものでしょう。

■お知らせ■
 友利昴氏が仕掛け人となっている、
 アンブッシュ・マーケティング規制に関する、
 肯定派・中立派・否定派の各論客による講演会が行われます↓
https://infinity-ip0729.peatix.com/

 ご興味を抱かれた方は、お聞きになることをお奨めします。
 私は行くつもりでチケットを入手しました。

posted by Dausuke SHIBA at 15:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 五輪
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