2019年06月29日

オリンピック関連登録商標の異議申立と違法ライセンス疑惑の狭間で(3):IOCファミリーの登録商標の多くは無効ではないか

 異議申立と違法ライセンスは交叉する話だと考えて、
 連載を始めたのはよいのですが、特許弁理士としての本業が忙しくなり、
 頭が特許弁理士のままDVDで『陸王』を見てしまったばかりに、
 道草ブログを結構気合入れて書いていたりしたため、
http://patent-japan.sblo.jp/archives/20190616-1.html
 すっかり、こちらの連載が中断してしまいました。

 今回は「IOCファミリーの多くの登録商標は無効ではないか」、
 次回は「商標法改正では違法ライセンス問題は解消しない」
 という違法ライセンス寄りの話をして、
 それ以降に、『五輪』登録異議申立の話に移っていこうと思っています。

《IOCファミリーが使用する商標は
 何故登録されているのか》

 商標は商品・役務(サービス)に使用される標章(マーク)ですが、
 IOCファミリー(IOC、JOC、組織委員会)は、
 IOCの行う事業(サービス)である「オリンピック競技大会」
 に使用するマークである登録商標を山のように持っています。
http://patent-japan-article.sblo.jp/article/186050421.html
 ******
 商標法4条1項6号は、非営利公益事業を表示する商標は、
 何人に対しても商標登録することを認めていません。

 「オリンピック競技大会」は、
 特許庁の審査基準では「非営利公益事業」であるとされているので、
 IOCファミリーが有する登録商標の多くは、
 商標法4条1項6号に規定する商標(非営利公益事業を表示する商標)に該当して、本来は、
 IOCを含めて何人も商標登録を受けることができなかった筈です。

 それが、何故登録されているのでしょうか?

 それは、商標法4条1項6号に例外措置の規定(商標法4条2項)があり、
 「非営利公益事業を行っている者」が出願した場合に限り、
 商標法4条1項6号を適用せず、
 他に拒絶理由がなければ商標登録を認めることになっているからです。

 即ち、「オリンピック競技大会」を表示する商標を、
 「オリンピック競技大会」を行っている「IOC」が出願した場合に限り、
 他に拒絶理由がなければ商標登録は認められることになります。

 IOCファミリーの登録商標の多くは、特許庁の審査において、
 審査官が、商標法4条2項が適用されると判断して、
 商標法4条1項6号を理由として拒絶しなかった、ということになります。

《IOCファミリーの登録商標の多くは
 無効ではないか》

 ところが、商標法4条2項によれば、
 「オリンピック競技大会」を行っている「IOC」が出願した場合に限り
 商標法4条1項6号を理由にして拒絶しないということなのですが、
 「オリンピック競技大会」が「2020年東京大会」である場合の登録商標は、
 「IOC」ではなく「組織委員会」等が出願している場合が多いのです。

 そうであれば、「組織委員会」等≠「IOC」ですから、形式的には、
 組織委員会等が出願した「2020年東京大会」を表示する登録商標は、
 商標法4条1項6号が適用されて拒絶されるべきだった(即ち、無効である)
 ということになってしまいます。

 本当にそんなことが言えるのか、もう少し詳細に考えてみます。

■組織委員会が出願した商標は
 「2020年東京大会」を表示しているのか■

 典型的な以下の登録商標は、「2020年東京大会」のために、
 「2020年東京大会」をイメージしてイラストレーターが創作して、
 組織委員会等の公募に応じたものを組織委員会に採用されたのですから、どれも「2020年東京大会」を表示してるとしか考えられません。

 商願2019-029507号(2020年大会のピクトグラム)は、
 これから審査にかかる出願段階のピクトグラム商標ですが、
https://dailynewsagency.com/2016/08/18/the-sports-pictograms-of-the-tt5/
 各ピクトグラムは、「2020年東京大会」の各競技ごとに作成された各競技を示すマークですから、やはり「2020年東京大会」を表示するということができます。
@登録第5464947号(出願人:JOC)
A登録第5509560号(出願人:招致委員会)
5509560.jpg
B登録第5626678号(出願人:招致委員会)
「TOKYO 2020」
C登録第6008748号(出願人:IOC→組織委員会)
6008748.jpg
D登録第6008751号(出願人:IOC→組織委員会)
6008751.jpg
E登録第6008755号(出願人:IOC→組織委員会)
6008755.jpg
F登録第6008760号(出願人:IOC→組織委員会)
6008760.jpg
G登録第6008762号(出願人:IOC→組織委員会)
6008762.jpg
H登録第6012009号(出願人:IOC→組織委員会)
6012009.jpg
I登録第6044031号(組織委員会)
6044031.jpg
J登録第6076124号(組織委員会)
6076124.jpg
K登録第6076125号(組織委員会)
6076125.jpg
L商願2019-029507号(組織委員会)
2019-029507.jpg

■オリンピック競技大会を行う者とは■
 以下、オリンピック憲章を「憲章」といいます。

 IOCは、オリンピック精神を、オリンピック競技大会の実施を通じて
 世界に流布することを内容とするオリンピック運動を主導する私的団体であり(憲章前文/オリンピック精神の根本原則及び憲章規則1及び2)、
 王族・貴族・資産家等の15人の理事と100人余りの委員で構成されますが(憲章規則16.1、19.1)、オリンピック競技大会を実行するための選手、組織、会場及び十分な資金を有しません。

 そこで、IOCはオリンピック運動を推進するために、IF(国際競技連盟)及び各国毎にNOC(国内オリンピック委員会)を承認し、
 IOC、IF及びNOCをオリンピック運動の主要3構成要素とみなし(憲章規則1.2、25及び27)、
 オリンピック競技大会の運営組織としてOCOG(オリンピック競技大会組織委員会)をNOCの責任下で設立させます(憲章規則35)。

 2020年東京大会では、
 NOCは山下泰裕氏を会長とするJOCであり、
 OCOGは森喜朗氏を会長とする組織委員会ということになります。
 
 IOCは、オリンピック競技大会の最高責任者であり、
 IF及びNOCは、IOCの代行組織、
 OCOGは、NOCが設立に管理責任を負うNOCの代行組織
 として位置づけられます。

 開催都市は、権限を有する都市の公的機関が、
 その都市の属する国のNOCの承認を得て、
 オリンピック競技大会を開催するために
 立候補申請を提出した複数の立候補都市から
 IOC総会によって選定され(憲章規則33.3.2)、
 その後に開催都市契約によって、IOCからオリンピック競技大会の開催及び実行を委任されます(憲章規則33.3.3)。

 ここで留意すべきは、
 開催都市はオリンピック競技大会の開催・運営を委任されているだけで、
 オリンピック運動及びオリンピック競技大会の主催者ではなく、
 オリンピック競技大会の会場を整備して提供するという役割を、
 IOCから期待されているに過ぎません(憲章規則34)。

 2020年東京大会では、開催都市は東京都であり、
 開催都市契約によって、IOCから、東京都とJOCが、
 オリンピック競技大会の企画・資金調達。運営を委任され、
 東京都とJOCの共同出資で設立された組織委員会が、
 さらに、大会の具体的な運営を委任されます。

 ******

 以上をみてわかるように、2020年東京大会において、
 IOC、JOC、組織委員会及び東京都は、
 オリンピック精神を共通の理念として相互に契約関係にある一体的な協会組織ですが、法人としてはIOCとは資本関係の全くないない別々の独立した組織であり、
 2020年東京大会を行う者(主催者)は、あくまでIOCであり、
 東京都及びJOCは2020年東京大会の運営を委任されている下請け、
 組織委員会は、東京都及びJOCの下請け(IOCの孫請け)である
 に過ぎません。

 組織委員会は、あたかも永続性のある巨大組織として、
 2020年東京大会の主催者のように振る舞っていますが、、
 200年東京大会の運営代行者(=エージェンシー)に過ぎず、
 開催都市が東京都に決まったときに設立され、
 2020年東京大会の終了と共に消滅する一時的な組織に過ぎません。

 JOCは、オリンピック運動のIOCの継続的なパートナーですが、
 2020年東京大会について主催者では全くなく、やはり、
 IOCからの委任された名目的な大会運営者であるにすぎません。

 石原都知事が会長をしていた招致委員会に至っては、
 2020年東京大会についてIOCから運営の委任もされていない、
 IOCとはほとんど全く何の関係もない組織といえます。

 ******

 以上から、非営利公益事業たる2020年東京大会を行う者とは、
 あくまでもIOCであり、
 東京都でも、JOCでも、組織委員会でも、招致委員会でもありません。

■IOC以外の者が出願人となる出願商標は
 商標登録を受けることができない■
 そうであれば、
 JOCが出願人である登録第5464947号、
 招致委員会が出願人である登録第5509560、5626678号
 組織委員会が出願人である登録第6008748、6008751、6008755、6008760、6008762、6012009、6044031、6076124、6076125号、商願2019-029507号
 はいずれも商標法4条1項6号が適用され、本来は、
 商標登録を受けることができなかった(無効である)又は
 商標登録を受けることができない(拒絶される)ことになります。

 これだけですと、しかし、エージェンシーとはいっても、組織委員会は、
 どう見ても2020年東京大会を行っているとしか見えないではないか、
 と言われそうなので、少し補足しておきます。

■補足■

〔1〕登録第3275647号(登録商標『オリンピック』)は、
   当初JOCが出願しており、審査で商標4条1項6号に該当する、
   という拒絶理由通知が出されています。拒絶理由通知では
   「・・・IOC・・・の著名な商標と同一のものである。
    したがって、この商標登録出願に係る商標は、
    商標法第4条1項6号に該当する」と指摘されています。

   JOCは、審査中に当該出願商標をIOCに譲渡して、
   IOCの出願商標とすることで、拒絶理由を解消して、
   IOCが商標登録を受けています。

   この場合、登録商標はカタカナの『オリンピック』で、
   我国で何度もオリンピックが開催されていた経緯をみれば、
   JOCは我国で行われるオリンピック競技大会『オリンピック』を行う者
   といえそうにも思えますが、やはり、
   オリンピック競技大会『オリンピック』を行う者はIOCである、
   と認定され、JOCもそれを受け入れたということになります。

   さらに、JOCが有する登録商標をみても、
   オリンピック競技大会そのものを表示するというよりも、
   JOC自身を表示するものだけのように見えなくもありません。

   また、登録第4902995号(登録商標『がんばれ!ニッポン!』)も、
   2020年東京大会を直接的に表示してはいない、
   と言えないことはないでしょう。

   しかし、組織委員会が大会ブランド保護基準で主張するように、
   『がんばれ!ニッポン!』が、
   『オリンピック』を想起するものであるいうことであれば、
   審査基準上は、オリンピック競技大会を表示する商標となりますから、
   JOCが出願した『がんばれ!ニッポン!』は、
   商標法4条1項6号に該当して無効である、
   と言えてしまいます(組織委員会は墓穴を掘ることになります)。

〔2〕外国営利企業によるブランド商品販売事業を示す商標について、
   その外国営利企業の日本法人エージェンシーが
   我国で商標権者になることは可能です。

   しかし、その外国営利企業の商標が非営利公益事業を示す著名商標
   である場合には、その外国営利企業の日本法人エージェンシーによる
   出願商標の商標登録を認めないのが、商標法4条1項6号といえます。

   その場合は、
   あくまでもその外国営利企業自らが出願人になる必要がある
   ということになります。

   商標法4条1項6号は、
   IOCの非営利公益事業を表示する登録商標を
   IOCの日本法人エージェンシーである組織委員会が行う、
   営利企業にライセンスして(それ自体、現在もほとんど違法ですが)、
   営利企業がその登録商標を利用して稼ぐ収益を見込んで、
   ライセンスの対価を協賛金として吸い上げて、
   大規模な営利性を外形的に回避するような非営利公益事業など
   想定していないのです。

   過酷な市場競争を前提にできない非営利公益事業の著名商標を、
   その非営利公益事業者が出願する場合に限り登録を認めて、
   厚く保護するというのが、商標法4条1項6号の趣旨であることを
   改めて確認すべきでしょう。
posted by Dausuke SHIBA at 18:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 五輪
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