2018年08月17日

『五輪』が危ない(9):特許庁による商標法第4条1項6号の拡大解釈は何かの間違いか(U)

《IOCの出願商標『五輪』との関係》 

 IOCの出願商標『五輪』に対して、頭を空っぽにして
 商標審査基準第12版の商標法第4条1項6号の取扱いを
 当て嵌めてみます。

 出願商標『五輪』は、審査運用上、「表示する標章」に含めてしまうので、
 商標法第4条1項6号により、原則、登録されません。

 一方で、IOCは商標法第4条1項6号及び第4条2項の事業者に該当し、
 商標法第4条2項により例外として、IOCが『五輪』を出願する場合に限り、
 商標法第4条1項6号を適用して拒絶されず、
 他の登録要件を満たせば、登録されることになる、ということになります。

 しかし、これでは、商標審査基準第12版の読みようによっては、
 IOCに『五輪』を登録させるために、商標審査基準を改定した、
 と受け取られかねず、私はこの点を大変に心配しているわけです。

 商標審査基準第12版の商標法第4条1項6号の取扱いが間違いだった場合、登録商標には無効理由があることになることもあり、
 せっかく登録になってやれやれと思っているIOCに、
 ぬか喜びでしたでは、それこそ国際信義上よろしくないのでは
 と、心配する次第です。

《特許庁による商標法第4条1項6号の拡大解釈が間違っているかもしれない理由》

■法的根拠の観点■
 前述したように、商標審査基準第12版では、
 商標法第4条1項6号の「表示する標章」に、
 「「国等」を想起させる表示を含む」としてしまいましたが、
 商標法第4条1項6号をどう読んでもそうは読めません。

 「国等」のところに、「オリンピック競技大会」が入るのですが、
 商標審査基準第12版は、
 「「オリンピック競技大会」を表示する標章には
 「「オリンピック競技大会」を想起させる表示を含む」ということになります。

 これは、組織委員会の「ブランド保護基準」の言い回しと同じですね。
 「「オリンピック競技大会」を想起させる表示」なる主観的要件を入れると、
 商標法第4条1項6号の「表示する標章」の範囲が不明瞭になり、
 法律が許容できる解釈を大きく逸脱しているとしか言いようがありません。

 従って、商標審査基準第12版は、
 「国際オリンピック委員会」を想起する表示として、
 その略称『IOC』を挙げ、
 「オリンピック競技大会」を想起させる表示として、
 その俗称『五輪』を挙げますが、
 商標法第4条1項6号に取扱いの根拠を見出すことができません。

 特に、『IOC』は『国際オリンピック委員会』の略称として著名ですから、
 商標法第4条1項8号 
 「他人の・・・名称若しくは・・・これらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」
 を適用すれば済む話で、何故、わざわざ拡大解釈までして、重複して商標法第4条1項6号で保護する必要があるのか、ということです。

 商標審査基準第12版が商標法第4条1項6号を拡大解釈すると、
 商標法第4条1項8号と重複してしまうということは、
 拡大解釈の範囲が商標法第4条1項6号の予定する範囲を超えている
 ということでもあります。

■立法趣旨の観点■
 商標法第4条1項6号の立法趣旨は、
 商標法第4条1項6号で規定される団体・事業者・標章は、
 権威があり国際信義上重要であるので、特段の保護を必要とする
 という点です。

 『オリンピック』は、IOCが1世紀以上にわたり主宰を継続する
 国際的イベントであるオリンピック競技大会を表示する著名な標章であり、
 IOC自身、『オリンピック』を最重要のオリンピック資産として、
 商標を含めあらゆる知的財産制度を利用して管理してきたといえます。

 『オリンピック』は、長期間にわたるIOCの管理の下で蓄積された、
 国際的に認められている崇高なオリンピック精神、及び
 競技大会としての社会的意義が化体(付着)することで、
 国際的に権威が尊重され、国際信義上、特段の保護に値するものになったと、今のところは言えるでしょう。

 一方『五輪』は、
 IOCのオリンピック資産ではなく、従って、
 IOCがオリンピック資産としての管理など全くしておらず、
 『オリンピック』の簡略称呼として我国の大衆が80年間使用し続けてきた状況を放置した結果、
 商標審査基準第12版が説明する「俗称」になり果てたものです。

 『五輪』は、著名といっても我国でだけの話であり、
 我国の大衆には意味不明の言葉『オリンピック』に対する、
 我国だけで通用する呼び名にすぎません。

 してみれば、『五輪』は、
 国際的に尊重される権威など化体している筈がなく、
 国際信義上、特段の保護に値するものとは言えません。

 ******

 これは、以下のような思考実験を行うと分かり易くなります。

@IOCとは無関係の私人が、
 商品「線香」に使用する『オリンピック』を出願したとします。

 商品「線香」はスポーツ競技会とは非類似ですから、
 商標法第3条の観点からは、
 商品「線香」に使用する『オリンピック』は登録されえます。

 しかし、
 『オリンピック』はオリンピック競技大会に強く結びついており、
 化体した信用力が極めて強力な標章ですから、
 例え非類似の商品に使用されても、4条1項6号が適用されて、
 登録されません。

Aそれでは、IOCとは無関係の私人が、
 商品「線香」に使用する『五輪』を出願したとします。

 『五輪』は、『オリンピック』の呼び名にすぎず、
 仏教的古語としての意味や宮本武蔵「五輪書」にも結びついているので、
 「線香」に使われた途端に、『オリンピック』との結びつきが希薄となり、
 4条1項6号で保護すべき権威や国際信義などはどこかに霞んでしまい、
 4条1項6号で拒絶しなければならない要素があるとはいえません。

 言い換えますと、『五輪』は、
 『オリンピック』のように尊重されるべき権威はなく、
 国際信義上、特段の保護に値する標章ではなく、
 4条1項6号で保護する必要のない、通常の標章であるということです。

 ******

 以上から、『五輪』を、その権威と国際信義を考慮して保護されるべき4条1項6号の「表示する表書」に含めてしまう商標審査基準第12版は間違っていると思います。

《特許庁の根拠なき拡大解釈がもたらすかもしれない大問題》

 商標審査基準第12版は、
 商標法第4条1項6号の「表示する標章」に『五輪』を含めるという
 間違った拡大解釈をやらかしてしまったために、
 以下のような大問題に繋がる可能性があります。

■IOCの出願商標『五輪』は
 商標法第4条1項6号が適用されて
 拒絶される!?

 商標法第4条2項は、以下のように規定されます。
===============================
2 国・地方公共団体等、非営利公益団体又は非営利公益事業者
  が前項第六号の商標について商標登録出願をするときは、
  同号の規定は、適用しない。
===============================

 商標法第4条2項の「前項第六号の商標」に『五輪』が含まれるのか、
 と言う大問題です。

 「前項第六号の商標」とは、商標法第4条1項6号の「表示する標章」で著名なものと同一・類似の商標ですが、
 商標審査基準第12版は、
 商標法第4条1項6号における「表示する標章」に、審査運用上、
 「国等」を想起させる表示を含めると拡大解釈しましたが、
 商標法第4条2項では、審査運用上の拡大解釈をしていません
 (そもそも、商標審査基準には商標法第4条2項の説明がありません。
  商標法第4条2項の引用先の商標法第4条1項6号が拡大解釈されることなど想定していなかったということかもしれませんね)。

 そうであれば、商標法第4条2項は、
 商標審査基準第12版で何も説明されていないので、
 「前項第六号の商標」に『五輪』を含むとは解釈しないで、
 従前同様、条文の文言通り取り扱うことになります。

 言い換えると、商標審査基準第12版では、
 商標法第4条1項6号では、審査運用上、
 「表示する標章」は、「表示する標章」+「国等を想起させる表示」
 として取り扱空いますが、商標法第4条2項では、条文の文言通り、
 商標法第4条1項6号の「表示する標章」しか引用しないということです。

 従って、IOCの出願商標『五輪』は、 
 審査運用上、商標法第4条1項6号が適用され登録が拒絶される一方で、
 商標法第4条2項の例外適用が認められないため、結局のところ、
 商標法第4条1項6号が適用され拒絶査定されるしかないことになります。
 
■IOCの出願商標『五輪』は
 オリンピック競技大会に使用されていない
 ことになる!?


 特許庁が商標法第4条1項6号の拡大解釈が間違っていることに気付き、
 拡大解釈を撤回したとしても、事実認定は変わりませんから、
 『五輪』は「表示する標章」に含まれない(=「表示する標章」ではない)ことになります。

 そうすると、『五輪』はオリンピック競技大会を表示する標章ではない、
 ということになり、それではいったい何を表示しているのか
 ということなります。

 そうなると商標第3条1項柱書(出願商標の使用意思)の問題が浮上してくるようにも思います。

 なんだか、収拾がつかなくなってしまいそうですが、
 特許庁はどうするのでしょうか。
posted by Dausuke SHIBA at 17:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 五輪
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