2018年08月05日

『五輪』が危ない(5):『五輪』は『オリンピック』に類似するか?

《北海道新聞のIOCによる『五輪』出願の記事》
 2018年7月5日付の北海道新聞で、
 IOCが『五輪』を商標登録出願しているとが報道され、
 私のコメントも最後の3行に載りました。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180705-00010000-doshin-spo
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/205886
《栗原潔弁理士のコメント》
 知財関連のトピックについてタイムリーにコメントを出されている
 栗原潔先生(金沢工大客員教授・弁理士)も
 北海道新聞の上記報道を取り上げていらっしゃいます。
https://news.yahoo.co.jp/byline/kuriharakiyoshi/20180712-00089101/

 栗原先生は、
 北海道新聞の記事と同趣旨の内容のコメントと、
 以下のコメントをされています。
 a.「五輪」が最近まで出願されていなかったのはちょっと意外。
 b.出願人がJOCではなくIOCである理由が不明
  (予算配分の問題と思う)。
 c.商標登録されていない状態で「五輪」が勝手に使われた場合でも
  「オリンピック」の類似範囲として商標権を行使できる可能性は
  十分にある。
 d.我国ではアンブッシュ・マーケティング防止を既存知財制度で行う
  という方向性に合わせて、念のために
  「五輪」を登録商標として押さえるということになったのではないか。
 e.「五輪」が商標登録されると「五輪真弓」はどうなる? 
  というネットコメントに対して、商標法26条1項により、
  本人による使用であれば仮に商標的使用であっても問題ない、
  との「マジレス」で回答されています。

 この中で、若干気になるa.及びc.について考察してみます。

《『五輪』が最近まで出願されていなかった理由》
●理由1
 『五輪』が危ない(1)〜(4)でお話したように、
 そもそも『五輪』を商標登録出願しても、
 以下の理由から登録されないからです。

 @商標審査基準第12版(平成28年4月1日)から、特許庁は、
  『オリンピック』『OLYMPIC』の俗称『五輪』は、
  商標法第4条第1項第6号に該当し登録しない
  と明言しています。

 A1936年に読売新聞の記者が『五輪』を使いだして以降、
  『五輪』は日本中で不特定多数の日本人が使いだして瞬く間に、
  『オリンピック』『OLYMPIC』の俗称になっており、
  『ホッチキス』のように普通名称化しているといえます。

  平成28年4月1日以前は、標章審査基準上は、
  俗称『五輪』を登録しないことを明示していませんが、特許庁は、
  『五輪』が出願されても、
  商標法第4条第1項第6号又は商標法第3条第1項第1号を適用して
  登録を拒絶したと考えられます。

●理由2

  欧州文化圏を拠点とするIOC自身も、
  日本文化の様々な要素が付随する日本語の俗称『五輪』が、
  アンブッシュ・マーケティング防止の直接的保護対象である
  オリンピック資産に含まれていると認識しておらず、
  俗称『五輪』を我国で商標登録出願しようとは考えなかった
  と思われます、

《『五輪』は『オリンピック』に類似するか?》

 栗原先生は
 「商標登録されていない状態で「五輪」が勝手に使われた場合でも
 「オリンピック」の類似範囲として商標権を行使できる可能性
 は十分にある。」
 と、何の根拠もないことをコメントしています。

 弁理士である以上、
 商標『五輪』が登録商標『オリンピック』の類似範囲にある
 とコメントされるのであれば、その根拠を説明すべきです。
 ******
 IOCが登録商標『オリンピック』を所有するので、
 登録商標『オリンピック』と同一又は類似する範囲の商標を、
 他人が無断で使用すると、
 IOCは、その他人の商標の使用に対して差止請求できます。
 (商標法第25条、36条第1項、37条第1号)。

 従って、
 『五輪』が登録商標『オリンピック』に類似する範囲にある場合、
 他人が『五輪』を無断で使用すると、
 IOCは、その他人に差止請求をすることができます。

 『五輪』が登録商標『オリンピック』に類似する範囲にあるとは、
 @『五輪』なる商標が『オリンピック』なる商標に同一又は類似し、
 A『五輪』を使用する商品・役務が、
  登録商標『オリンピック』の指定商品・指定役務に
  同一又は類似することをいいます。

 栗原先生はAを前提にして、@についてコメントされていると思われますので、
 ここでも、@について考察します。

 商標の類比判断は、特許庁・裁判所では、原則、
 商標の外観・称呼・観念の3要素に基づいて判断します。
(1)『五輪』の外観は『オリンピック』の外観に類似するか?
   『五輪』は漢字2文字で、『オリンピック』はカタカナ6字で、
   漢字「二」とカタカナ「ニ」が類似するというような事情もないので、
   両者は外観において全く類似していないといえます。
(2)『五輪』の称呼は『オリンピック』の称呼に類似するか?
   『五輪』は「ゴリン」と、『オリンピック』は「オリンピック」と称呼され、
   両社の称呼は全く類似していないといえます。
(3)『五輪』の観念は『オリンピック』の観念に類似するか?
   『五輪』は表意文字である漢字で構成され、
   「五つの輪」「五輪書」「東洋哲学としての五輪」の観念を生じます。

   なお、『五輪』は『オリンピック』の翻訳ではなく、
   IOCの運動理念である「オリンピック精神」の観念は生じません。

   一方、
   『オリンピック』は意味のない造語であり固有名詞であり、
   IOCの運動理念である「オリンピック精神」の観念を生じます。

   従って、両社の観念は類似するとはいえません。
 ******
  以上から、
  商標『五輪』は登録商標『オリンピック』の同一又は類似の範囲にありません。

  言い換えますと、
  商標『五輪』を登録商標『オリンピック』の指定商品・指定役務に使用しても、
  「「オリンピック」の類似範囲として商標権を行使できる可能性は十分にある。」
  とはいえないと思います。

  実際、我国で80年にわたり、
  我国で80年にわたり夥しい頻度で商標としても使用されたであろう『五輪』に対して
  IOCが差止請求をした実績はありませんから、
  IOC自身も、商標『五輪』の使用が、
  登録商標『オリンピック』の商標権を侵害するとは認識していなかったと思われます。
posted by Dausuke SHIBA at 11:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 五輪
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