2018年05月04日

2020年東京オリンピックの開催都市契約を読んでみた

 前回(2018年2月11日)の更新後、
 2020年東京オリンピックの開催都市契約に関する論文を書いており、
 昨日(2018年5月2日)ようやく投稿できて、やれやれ、ということで、 
 久々にブログを更新できました。

 昨年から今年にかけて、東京オリンピックに関する記事を見かけては
 読んでいましたが、いくつか興味深い記事がみつかったので、
 オリンピック憲章(Olympic Charter、以下「憲章」)に基づき、
 開催都市契約のプレイヤーについて簡単に説明して、
 論文であまり触れることができなかったトピックスを紹介します。

《IOC、IF、NOC、OCOG》

1.IOC(国際オリンピック委員会)は、オリンピック精神(Olympism)を、
  オリンピック競技会(Olympic Games)以下「大運動会」)
  の実施を通じて世界に流布するオリンピック運動
  (Olympic Movement)を主導する
  非営利の国際的な私的団体であることをまずは抑えるべきです。

  組織があまりに大きく複雑で、ピンとこないのですが、
  単なる私的団体にすぎないという点は、
  特定の教義を普及しようとする宗教団体、
  特定の史観を教育しようとする学校法人等と全く同じです。

2.IOCは、王族・貴族・資産家を中心とする15人の理事と
  100人余りの委員で構成されますが、
  オリンピック運動の実質的な活動である大運動会を実行するための
  選手、組織、会場及び十分な資金を有しません。

  そこで、IOCは、
  IF(国際競技連盟)と各国毎にNOC(国内オリンピック委員会)を承認し、
  IOC、IF及びNOCをオリンピック運動の主要3構成要素とみなし、
  大運動会の実行組織としてOCOG(オリンピック競技大会組織委員会)を
  NOCの責任下で設立させます。

  平たく言えば、IOCは大運動会の最高責任者であり、
  IF及びNOCは、IOCの代行組織(さらに平たく言えば「手足」)、
  OCOGは、NOCが管理責任を負うNOCの代行組織(同様に「手足」)
  として位置づけられます。

  従って、IOC、IF、NOC及びOCOGの4者は、
  オリンピック精神の信奉と普及を共通の理念とする、
  相互に契約関係にある一体的な協会組織であって、
  「IOC協会」という方がしっくりくると思います。

3.東京オリンピックでは、
  NOCはJOC(公益財団法人日本オリンピック委員会)、
  OEOGは公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
  (以下「組織委員会」)ですから、IOC協会たる
  IOC(バッハ会長)、JOC(竹田会長)、組織委員会(森会長)は
  東京オリンピックの実質的主催者です。

《開催都市》
  
  大運動会は、近代オリンピック成立当初から、
  世界各国の大都市が持ち回りで開催する世界巡業システムです。

  開催都市は、権限を有する都市の公的機関が、
  その都市の属する国のNOCの承認を得て、
  大運動会を開催するために立候補申請を提出した
  複数の立候補都市からIOC総会によって選定され、
  その後に開催都市契約によって、
  IOCから大運動会の開催及び実行を委任されます。

  東京オリンピックでは開催都市は東京都ですが、
  東京都は大運動会の開催及び実行を委任されているだけで、
  オリンピック運動及び大運動会の主催者ではなく、IOC協会から
  大運動会の会場を整備して提供するという役割を期待されています。

  当然のことですが、東京都は、地方公共団体であり、
  都民の支持する限りにおいてオリンピック精神に共感・賛同して
  政策を選択できるだけであって、
  オリンピック精神を全面的に信奉して、
  私的団体であるIOC協会によるオリンピック精神の世界流布の支援を
  政策目的としているわけではないということです。

  IOC協会と開催都市は、以下の表のような関係にある
  大運動会の共同事業者であるといえます。
開催都市契約の当事者1.jpg
  ここで少し思うのは、
  某学校法人の名誉校長を某総理夫人が務めるだけで
  大騒ぎになるにしては、
  私的団体の手足組織の顧問を内閣総理大臣がしても大騒ぎにならない
  ということです。

  やはり、組織が大きく複雑すぎてピンとこないのかもしれません。

《開催都市契約》

1.大運動会はIOCと東京都の共同事業であるという観点から見れば、
  開催都市契約は、大運動会の主催者であるIOC協会が、
  オリンピック運動の理念に共感・賛同した開催都市と締結する
  一種の共同事業契約であり、当然に、契約の
  一方当事者(「甲」)はIOC協会の最高責任者たるIOCで、
  他方当事者(「乙」)は開催都市たる東京都である、
  と思い込んで、開催都市契約を読み始めました。

  ところが、開催都市契約の「当事者」の規定を見て愕然としました。
 
  「甲」はIOCなのですが、
  「乙」は東京都に加えて、(NOCたる)JOCであり、さらに、
  付属する契約により(OCOGたる)組織委員会が加わっているのです。
開催都市契約の当事者2.jpg

2.さらに面白いのは、この契約では、
  大運動会の運営、財務、知財管理を含めて、
  IOCは、「乙」3者に対してほとんど履行義務がなく、
  専ら「乙」3者に、IOCに対する履行義務があり、
  その履行義務に対して「乙」3者は連帯責任を負わされています。

  JOCと組織委員会はIOCの手足で、
  IOCのために忠誠を誓っているのですから、こんな契約構造では、
  東京都はJOC及び組織委員会のさらに手足となってしまい、
  東京都にはIOC協会に対して実質的にほとんど何も権限がなく、   
  内閣総理大臣が顧問している組織委員会が主導して財務を仕切れば、
  誰もチェックできないまま、、
  大運動会の運営費用が膨張し続けるのは当然のことです。

《トピック1:小池都知事は実は頑張っていた》

1.こんな開催都市契約を引き継いだ小池都知事は、
  モチベーションを維持するのが大変だろうと思います。

  昨年(2017年)、東京オリンピックの開催費用の分担を巡り、
  東京都(小池都知事)と組織委員会(森会長)の関係が拗れて
  大騒ぎになったことは記憶に新しいところです。

  組織委員会はIOCの手足ですから、普通考えれば、
  東京都の共同事業相手の最高責任者であるIOCが、
  組織委員会とまず意見交換して、その上で、
  IOCが責任者として東京都と交渉するのが筋というものです。

  ところが、あのとき、来日したバッハ会長は、
  東京都と組織委員会に対して「両者ともまあまあ」
  という感じの「調整者」として着席していたので、
  私には何とも違和感がありました。

  しかし、「乙」3者間に揉め事が起きたときは、
  IOCが調整者として振る舞うことは、
  開催都市契約にしっかり規定されているのです。

  AroundtheRings Japan 2016年10月20日によると、
  「知事が主導する都政改革本部の五輪・パラリンピック調査チームは、
   都、国、組織委のトップが方針を協議する調整会議について、
   相互の関係が不透明であり、
   会議を牽引する議長の不在を問題視していた。
   知事はこれを踏まえ、
   バッハ会長に6者協議と議長の設置を提案したとみられる。」
  ということのようです。

  小池都知事は開催都市契約の当事者間の不明瞭な関係を理解して
  行動したと思われます。

  外国での生活が長く、ニュースキャスターであられたので、
  開催都市契約を英文でも和訳でも理解でき、
  普通の感覚で読み込めたのだろうと思います。

2.東京オリンピックの開催都市契約には、秘密保持条項があって、
  東京都もこの条項を盾に、開催都市契約を公表していませんでしたが、
  小池都知事は都政の透明性の観点から公表すべきとして、
  IOCと交渉し開催都市契約を修正する契約を締結しています。

  東京新聞2017年4月22日によれば、小池都知事は
  「「公表しないことではない。都民の皆さんにチェックしてほしいと、
  むしろ思っている」と強調した。」とのことだったようです。

  開催都市契約の秘密保持条項などは、
  過去2回のリオ大会及びロンドン大会では存在せず、
  それほど開催都市契約の内容が変わらないにも拘らず、
  東京大会において突然規定されています。

  しかし、ここで重要なのは、
  都民に契約内容の説明責任を有する都知事が交渉する気になれば、
  IOCも修正に応じることができる程度の内容だったという点です。

  小池都知事が、必要と考え、交渉する気になって、
  実際にIOCに秘密保持条項の修正に応じさせ、結果として、
  開催都市契約を公表できるようにしたことは、
  もっと評価されてよかったと思います。
   
  小池都知事は実は頑張っていたのだ、ということが、
  今回改めて感じた次第です
  (今後も頑張って、東京オリンピックを成功させていただきたい)。

《トピック2:「五輪」は誰のものか》

  オリンピック憲章で、組織委員会は東京オリンピックの特定期間内に
  文化プログラムを開催することが義務付けられています。

  この文化プログラムの準備段階として、
  東京都が選ばれた参加者に資金援助する事業を推進しています。

  東京新聞2018年4月20日によれば、
  東京都の税金を拠出する事業であるにも関わらず、
  当該参加者がオリンピック知財を使用できないため、
  事業の統一感を出せないことが問題になっているとのことです。
   
  「「五輪」の名称は知的財産に当たり、多額の協賛金の見返りに
   名称などの使用権を得たスポンサーの権利を侵害する恐れが
   あるため」
  「目玉として期待される東京都の事業が「五輪」と銘打てない。」
  というとだそうです。

  しかし、これは俄かには信じがたいことです。

  「五輪」の由来については、
  私のブログ過去の論文でも説明していますが、
  「五輪」は、1936年に読売新聞の記者が使用して以来、
  日本人が広く使用した結果、
  「エスカレータ」「ホチッキス」と同様に普通名称化され、
  我国では誰も独占できない公有財産(public domain)に
  なっているとしか思えません。

  今に至って
  「「エスカレータ」はわが社の商品名であるから使用を禁じる」
  「「ホチッキス」はわが社の商品名であるから使用を禁じる」
  と言えないように
  「「五輪」はIOCのオリンピック資産であるから使用を禁じる」
  と言えるはずがありません。

  私も1964年東京オリンピック以来、生きながらえていますが、
  その間、IOCが「日本語の「五輪」はIOCの知的財産である」
  と主張したことは耳目に触れたことがなく、
  IOC、JOC及び組織委員会も「五輪」を登録商標にはしていません。

  「五輪」は、他でもない大先輩の記者が、
  我国の公有財産にしてくれた新聞用語なのですから、
  東京新聞も、JOC又は組織委員会が、もし、
  「「五輪」はIOCのオリンピック資産であるから使用を禁じる」
  などと訳のわからないことを言ってきた際は、
  変に客観報道しないで、「五輪」は公有財産であり、
  正当な根拠に基づかない誤った差止警告であることを、
  積極的に報道すべきではないかと思います。

******

 今回の投稿論文は、順調に手続きが進めば、
 夏頃に掲載されると思いますので、その折にはまた報告します。
posted by Dausuke SHIBA at 07:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 五輪
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