2019年12月14日

アンブッシュマーケティング規制に関する弁理士研修(その2)弁理士会の研修レベルが低すぎる

 2019年12月11日にニッショーホールで行われた、
 弁理士会による弁理士義務研修を聴講してきました。

 演題は『オリンピックのアンブッシュマーケティング規制の法的ポジションと実務上の対応』
 講師は、著述家の友利昴氏と弁護士・弁理士の河部康弘氏でした。

 時間配分は、友利氏の講義が1時間半、河部弁護士の講義が30分でした。

 友利昴氏による講義が極めて有意義であったことは、
 先のブログ記事で紹介させていただきました↓
http://patent-japan-article.sblo.jp/article/186918282.html

 メインは友利氏の講義ですから、
 河部弁護士の講義の時間が30分であって構いませんが、
 河部弁護士の講義の内容があまりに低レベルであり、
 配布されたレジュメは、河部弁護士の担当箇所に、
 河部弁護士の名前が明示されておらず、あたかも、
 河部弁護士の講義内容も友利氏が講義したような体裁になっています。

 これでは、友利氏に失礼なだけでなく、
 弁理士会の研修が弁理士会員の会費で運営されていることに鑑みれば、
 研修の受講弁理士にも失礼極まりないと思います。

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 友利氏は、友利氏のTwitterの呟きからわかるように、
https://twitter.com/s_tomori?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor
 この講義のためにだいぶ前から準備をされており、実際に聴講すると、
 膨大な資料に基づく密度の高い内容で、
 受講する弁理士が考えるべき商標制度上の種々の課題を提起されている
 ことは、先に挙げたブログ記事で説明した通りです。

 そうであれば、弁理士でもある河部弁護士は、
 友利氏の提起された種々の課題に対して、
 知財制度の専門家としてどう考えるのかを講義することが、
 友利氏に対する、そして受講弁理士に対する、講師としての務めでありましょう。
 
 河部弁護士の講義は、弁理士の顧客が、
 組織委員会からアンブッシュマーケティング規制として警告を受けた場合、
 弁理士の先生はどう対応すべきかを、
 組織委員会の大会ブランド保護基準だけを頼りに、
 適当に(としか思えない)説明をするという、スカスカ・ペラペラの内容で、
 TVで行われる法律相談のレベルにも達しない、裁判を前提にした、
 弁理士にとっておよそ役立つとは思えないハウツー話に終始していました。

 聞いている方が恥ずかしくなります。

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 また、司会をしていた弁理士会研修所の中川所長が、
 講義終了後の、会場の受講者と講師の質疑応答に先立って、
 受講者を差し置いて、友利氏にわざわざ質問していましたが、
 IOCのビジネス実態の「商標法4条1項6号の非営利公益要件」への該否について
 友利氏はどう考えるのか、という内容で、これもまた驚いてしまいました。

 友利氏を外部講師としてわざわざ招待して、自ら司会をしたくらいでしょうから、
 中川所長は、事前に、友利氏が言及した「商標法4条1項6号の非営利公益要件」
 について、友利氏のレジュメなり趣旨説明なりで聞いている筈でしょう。

 そうであれば、
 専門家として「商標法4条1項6号の非営利公益要件」について所感を持った上で
 友利氏に質問すべきでしょう。
 中川所長は、以前に、やはり弁理士研修として行われた「著作権実務者講座」
 で講師をお務めで、そのときも専門家としての意識が今一つのように感じましたが、
http://patent-japan.sblo.jp/article/178900676.html
 今回も同じような感じを受けた次第です。

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 IOCのビジネス実態の「商標法4条1項6号の非営利公益要件」への該否などは、
 弁理士が、「商標法4条1項6号」の法趣旨まで遡って、
 あくまで法としてどう考えるのかを検討すべき問題でありましょう。

 ちなみに、商標法4条1項6号には「非営利公益」の特段の定義はなく、
 商標法4条1項6号は60年以上前に制定された古い法律で、
 当時想定された「非営利公益」が、現代社会においてどうイメージできるかは、
 法趣旨をよく考えて法的に考察する必要があります。

 この点は以下の論文で少し考察しています↓
https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3423

 河部弁護士と中川所長は、本問題について、
 知財専門家である弁理士・弁護士としてしなければならない法的な考察
 (と言っても、弁理士受験レベルを超えない初歩的な範囲の考察なのですが)
 をしているのでしょうか? 

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 私が弁理士になってから10年以上の間に受けた弁理士会研修の経験では、
 特許系研修はこれほど低レベルではないのですが、
 商標系研修は、ちょっとレベルが低すぎるような感じを受けています。

 IOCファミリーの商標制度に基づくライセンスビジネスは、おそらく、史上空前の規模であり、
 違法ライセンス問題が絡むライセンス収入(協賛金)は4000億円と見積もれますから、
 「桜を見る会」で話題になったジャパンライフの1800億円を優に上回る規模です。

 このようなことを考えれば、特に商標系弁理士は、
 我が国では、自分たちの活動のベースとなる商標制度が崩壊しており、
 それを知らずにノホホンと仕事をしている状況ではないことについて、
 相応の問題意識は持つべきです。

 弁理士会でも、
 商標法4条1項6号の審査基準改定に商標委員会が深く関与していますし、
 違法ライセンスの問題では、私が詳細な解析をした論文が、
 パテント誌に2件掲載されており、
 そこでは、友利氏の著書を引用して、アンブッシュマーケティング規制に言及しています。

 IOCファミリーの商標制度に基づくライセンスビジネスは、
 商標法4条1項6号だけではなく、友利氏があえて指摘しなかった、
 商標法4条2項、24条の2第3項、30条、31条と密接に絡み、
 掘り下げていけば必ず違法ライセンスの問題に行き着く筈です。

 河部弁護士も中川所長も、所属する弁理士会の会誌に掲載された、
 アンブッシュマーケティング規制に深く関係する論文に目も通さずに、
 友利氏の講義内容の範囲から1歩もでない考察姿勢であっては、
 研修のレベルが低くなるのは当然です。

 弁理士会は、
 弁理士会の研修はどうあるべきかを真剣に考えるべきでしょう。

アンブッシュマーケティング規制に関する弁理士研修(その1)有意義だった友利昴氏の講義

 2019年12月11日にニッショーホールで行われた、
 弁理士会による弁理士研修を受講してきました。

 演題は『オリンピックのアンブッシュマーケティング規制の法的ポジションと実務上の対応』
 講師は、著述家の友利昴氏と、弁護士・弁理士の河部康弘氏でした。

■友利昴氏について■
 友利昴氏は,
 IOCファミリーによるアンブッシュマーケティング規制問題の我が国における第一人者
 といってよく、知的財産制度の素養の上に立って、本問題を、
 グローバルな視点で歴史的・文化的・社会的・制度的な観点から、
 幅広く論じておられます。

 IOCファミリーが我が国で展開するオリンピック事業は、
 ビジネス手法において非常に大きな問題を抱えており、
 表玄関が、友利氏が追及するアンブッシュマーケティング規制問題であり、
 裏玄関が、私が追及するオリンピック関連登録商標の違法ライセンス問題である
 と言ってよいと思います。

 友利氏と私は、これらの問題について、お互いに知らないまま、
 ほぼ同時期に表と裏から考察を開始し、
 私が、パテント誌2019年3月号掲載予定の論文で本格的に問題提起するため、
 2018年の暮れに論文原稿を書いていたときに、友利氏の出版されたばかりの著書
 『オリンピックVS便乗商法―まやかしの知的財産に忖度する社会への警鐘
 (作品社)を拝読し、
 私が到底カバーしきれない問題の歴史的・文化的・社会的な観点と、
 追及していた違法ライセンス問題が結び付き、早速引用させていただき、
 私の論文を友利氏に送り、お付き合いいただきだしたという経緯があります。
https://twitter.com/s_tomori/status/1158297837676818433

■本研修での友利氏の肩書の取り扱いについて■
 本研修は、
 友利氏の講義の内容が弁理士にとって極めて有意義であったのに対して、
 河部弁護士の講義と弁理士による質疑が極めて低調であり、
 この点は、改めてブログ記事にしますが、ここでは、
 友利氏の肩書の取り扱いだけ指摘しておきます。

 友利氏の本問題についての講演は、
 聴講者と話題を楽しく共有して、オリンピックを2倍楽しもうという、
 友利氏の思いと、友利氏の若々しく溌剌とした明るいキャラクターもあり、
 エンターテイメントとしても十分に楽しめるものであり、
 私は、友利氏は著述家というに相応しい方であると思っています。

 しかし、おそらく、研修所の無粋な方針に基づいてると思いますが、
 今回の研修での講師としての肩書は「1級知的財産管理技能士」
 となっており、研修所はいったいどういうセンスなのかと思ってしまいます。
 以下に、研修テキストの表紙を引用しました。
研修テキスト表紙.jpg
 プロの著述家の講義を、
 歴史的・文化的・社会的な教養が欠如する弁理士が研修として聴講して学ぶ
 というのが本来の趣旨であり、
 肩書を「1級知的財産管理技能士」としてしまっては、
 知財制度の非専門家が知財制度の専門家のために研修の講師をするという
 おかしな建前になることくらいは、研修所の方で考えるべきでしょう。

■友利氏が提供してくれた弁理士として考察すべき事項■
 今回の講義では、アンブッシュマーケティング規制問題についての、
 友利節による歴史的・文化的・社会的観点からの面白い話題に加えて、
 特に弁理士のための研修講義であることを考慮いただき、
 弁理士が自らの頭を使って考えなければならない法的観点の指摘が
 ちりばめられていました。

 その中で、私が特に興味深かった話題を挙げさせていただきます。

《「想起表現」規制について》
 友利氏は「原則、一般法では、オリンピック組織の登録商標や商品等表示、
 及びその類似表示・・・ではない「オリンピックを想起させる表現」
 (以下、「想起表現」)の使用は規制できない。」と指摘されました。

 厳密な法的解釈では友利氏の指摘通りですが、特許庁の審査実務では、
 審査基準(商標法4条1項6号)に「想起表現」がそのまま組み込まれており
 (審査基準改定で組み込まれた経緯自体には問題があるのですが)、
 IOC以外の者による「想起表現」は登録拒絶され、
 IOCが出願した「想起表現」は登録されうる状況にあり、
 「想起表現」が、IOCの登録商標の類似範囲に入りうるところまで、
 法律ではなく審査基準によって実質的に法定化されているのが現状です。

 「想起表現」に関係する審査基準の問題点を以下で少し議論しています↓
http://patent-japan-article.sblo.jp/article/186503955.html

 友利氏の指摘については、特に商標弁理士は、
 自らの出願・審査対応業務に直結する問題であるとして、
 真剣に考えるべきでしょう。
 
《結合商標「〇〇オリンピック」の使用の侵害性について》
 結合商標「〇〇オリンピック」を第三者が使用した場合、
 友利氏は非類似ないし出所混同を生じないと抗弁できるのではないか
 と指摘されています。

 商標制度では、登録商標と同一・類似の範囲の商標を無断使用すると、
 商標権侵害を問われますが、「同一・類似の範囲」の判断基準は、
 審査実務と裁判実務で概ね共通しますので、
 特許庁の類比判断の基準は、侵害時の類比判断の基準の参考になります。

 特許庁の類比判断において、
 「オリンピック」のような著名商標は特別な扱いがされており、
 原則、著名商標「オリンピック」を一部に含む商標「〇〇オリンピック」
 は「オリンピック」に類似するとされ、登録が拒絶されます。

 また、商標法4条1項6号における著名商標は、
 商品・役務の区分を異にしても、類似すると判断される傾向にあります。

 このような特許庁の取り扱いは、特に、
 オリンピック関連商標に対して忖度している傾向にあると思われ、
 審査実務全体を俯瞰すると、類比判断の基準の整合性が崩れてしまっている
 という問題があるようにも見えます。

 この点について、以下で少し議論しています↓
http://patent-japan-article.sblo.jp/article/186699819.html

 この点についても、特に商標弁理士が真剣に考えるべきでしょう。

《商標法4条1項6号における非営利公益要件との関係》
 友利氏は、商標法4条1項6号について、
 「そもそも「オリンピック」や「五輪マーク」は、果たして本当に6号で保護される
  「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章」か?
  つまり、今の五輪は営利事業だろうという話である(この点を争った出願人はいない模様)。」
 と指摘されています。

 「この点を争った出願人はいない模様」と大人の表現がされていますが、
 ここは、弁理士は
 「この点を争った弁理士はいない模様ですがどうなってるんですか?」
 と友利氏に突き付けられていると受けとって、弁理士自身が真剣に考えるべきでしょう。

 また、IOCファミリーの登録商標は多くが、非営利公益要件を具備して、
 商標法4条2項に該当して登録されていると考えられるので、
 上記の非営利公益要件が成立しないとなると、
 IOCファミリーの登録商標が無効理由を抱える可能性も生じます。

 この点は、以下の論文で少し議論しています↓
http://patent-japan-article.sblo.jp/article/186699819.html

 この点についても、特に商標弁理士が真剣に考えるべきでしょう。

《組織委員会ブランド管理部長の見解》
 友利氏による、日本でもアンブッシュマーケティング規制が緩和されつつあるという説明の中で、
 2019年5月25日付朝日新聞に
 「「スポンサーに悪影響を与えない」「特定の利益を生まない」「五輪の機運の盛り上げに資する」
  と判断できる場合は、指摘しない場合もある」
 との組織委員会ブランド管理部長(池松州一郎氏)のコメント記事を紹介されました。

 2019年5月25日といえば、
 2019年3月上旬にパテント誌に私の違法ライセンス論文が掲載され、
 2019年3〜4月に、違法ライセンスの問題が国会及び東京新聞紙上で追及された後の、
 2019年5月27日にライセンス禁止条項が削除された改正商標法の施行の直前
 にあたります。

 そそらく、この時期に集中的に指摘されたIOCファミリーによる違法ライセンス問題は、
 IOCファミリーによるアンブッシュマーケティング規制の強硬姿勢に影響を与えたのではないでしょうか。

 違法ライセンス問題が指摘されてしまった現状で、
 IOCファミリーがアンブッシュマーケティング規制を強行すれば、
 違法ライセンス問題が大々的に顕在化して日本中がひっくり返る大事件となるので、
 私は、IOCファミリーがアンブッシュマーケティング規制を強行することは、
 もうできないのではないかと思っています。

 そのような意味で、友利氏が指摘されるように、
 「2012年がアンブッシュ規制のピーク」であるばかりでなく、私が思うに、我が国では、
 「2019年にアンブッシュ規制は御臨終を迎えている」ということではないかと思います。

2019年11月30日

論文『オリンピック関連登録商標の違法ライセンス問題の解決策』がネット公開

 本業が立て込んでしまい、更新が止まってしまいましたが、
 五輪知財に関する私の最近の動きについて、まとめておきます。

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■弁理士会誌「パテント」2019年9月号に掲載された私の論文が、
 弁理士会HPの刊行雑誌サイトに掲載されました。

 私の五輪知財関係の5つの論文は全て同サイトに掲載されていますので、
 お時間のあるときにご一読下さい。

 『パテント』(弁理士会誌)2019年9月号掲載の最新論文
 『オリンピック関連登録商標の違法ライセンス問題の解決策』
 https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3423
 『オリンピック知財のライセンス活動の商標法上の位置付け』
 https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3208
 『開催都市契約とオリンピック知財の活用』
 https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3071
 論文『オリンピック憲章の資産権利規則の試訳に基づく論考』
 https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/2881
 『公益性の観点からみた東京オリンピックのロゴ等の知財管理』https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201606/jpaapatent201606_061-073.pdf

 併せて、私の五輪知財関係の以下のブログもご一読下さい。
 『オリンピック関連登録商標の異議申立と違法ライセンス疑惑の狭間で』
 http://patent-japan-article.sblo.jp/archives/20190420-1.html
 (シリーズ継続中)

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■IOCの登録商標『五輪』に対して、
 私が申し立てた商標登録異議申立に関する新たな論文を、
 9月に『パテント』に投稿しましたが、ようやく、編集部から、
 来年の春の号に掲載されるとの連絡がきました。

 この関連の話題は、ブログで連載中ですが、
 論文と重複しないようにトピックを深堀していきたいと思っています。

============
■『特許の無名塾』の今ご覧いただいている知財テーマブログを、
 五輪知財テーマだけにして、特許・商標・著作権等の他の知財の話題は、
 こちらの『知財と道楽テーマ』ブログに移しました。http://patent-japan.sblo.jp/

============
■併せて、御覧のように五輪知財テーマブログをプチリニューアルしました。
 ブログ開設以来、書きっぱなしの状態でしたが、
 リンク・カテゴリー・タブ・Twitterとの連携を少しずつ整備しようと思っています。

 今後ともよろしくお願いします。
posted by Dausuke SHIBA at 16:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 論文