2020年05月24日

コロナエンブレムはオリンピックエンブレムの著作権を侵害するか

 日本外国特派員協会(FCCJ)は、月刊誌の表紙に掲載した
 コロナに見立てたエンブレム(以下「コロナエンブレム」)のデザインが、
 オリンピックエンブレムのデザインの著作権を侵害するとの
 組織委員会の指摘を受け入れ、
 コロナエンブレムのデザインを取り下げると発表しました
 (2020年5月21日付朝日新聞DIGITAL)。

 そこで、今回は、
 コロナエンブレムはオリンピックエンブレムの著作権を侵害するか?
 について考えてみました。

■著作権侵害とは■
 第三者が、著作権者に無断で、
 著作権者の著作権に係る著作物を利用する行為を言います
 (著作権法17条1項、112条1項)。

 コロナエンブレムの場合、組織委員会は、FCCJが無断で、
 組織委員会が著作権を有するオリンピックエンブレムのデザインを、
 複製して利用したと指摘していました。

 ここで、コロナエンブレムが、
 オリンピックエンブレムの著作権を侵害するか否かを検討するに当たっては、
 以下を考える必要があります。

A.オリンピックエンブレムは著作権法上の「著作物」か?

  そもそも「著作物」でなければ、
  オリンピックエンブレムには著作権が発生しないので、
  FCCJは「著作物」を利用していないので、侵害に問われません。

B.オリンピックエンブレムが「著作物」である場合、
  FCCJは、オリンピックエンブレムを複製して利用したのか?

  複製して利用していないのであれば、
  組織委員会の指摘は当たらないということになります。

■オリンピックエンブレムは法上の「著作物」か?■

 「著作物」とは、著作権法2条1項1号で以下のように定義されています:
 「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、
  文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。


  オリンピックエンブレムは、商標登録6008759を引用すると、
  以下の商標のオリンピックシンボルを除く部分をいいます。
登録6008759.png
  エンブレム(紋章)の下に横書の文字を配置することは、
  エンブレムで通常採用される配置であり、当該配置に創作性はありません。

  横書の文字も、特段創作性のある内容ではありません。

  そうであれば、オリンピックエンブレムのデザインの創作性は、
  市松模様状に描かれた円環部分にあることになります。

  市松模様とは、
  「格子模様の一種で、二色の正方形(または長方形)を交互に配した模様
  をいい、古墳時代から見ることができるので(Wikipedia)、
  もはや、パブリック・ドメインであり、何人も自由に利用できるデザインです。

  しかし、オリンピックエンブレムの市松模様状のデザインは、
  単に、二色の正方形(または長方形)を交互に配しているわけではなく、
  大きさと向きが異なる正方形・長方形を並べた円環の1/3を構成する部分環を
  3つ繋げて1つの円環を構成しており、
  この部分環が3つ連なる円環の構成に美的な創作性があると思われます。

  従って、この部分環が3つ連なる円環の構成が、
  デザイナーであれば誰でも必然的に創作しうる、あるいは、、
  既にパブリック・ドメインであるということを立証できなければ、
  オリンピックエンブレムのデザインは著作物であるということになります。

■FCCJはオリンピックエンブレムを複製して利用したのか?■
 コロナエンブレムは、2020年5月21日付朝日新聞DIGITALから引用すると、
 以下のようなデザインです。
コロナエンブレム.png

 コロナエンブレムは、市松模様状に描かれた円環部分を有し、円環は、
 オリンピックエンブレムと同じ部分環が3つ連なって構成されています。

 コロナエンブレムのコロナの足のデザインは、
 新型コロナのデザインでは通常採用される形態であり、
https://jp.freepik.com/free-photos-vectors/coronavirus
 特段の創作性はなく、コロナの足のデザインを加えたことによって、
 円環の構成が判別つかなくなることもなく、
 結果として、円環の構成は明確に認識できる態様となっています。

 従って、コロナエンブレムの市松模様状の円環のデザインは、
 オリンピックエンブレムの創作的部分である、
 市松模様状の円環のデザインと実質的に同一であり、
 市松模様状の円環のデザインに依拠している、と言いえます。

 従って、FCCJは、オリンピックエンブレムを複製して利用した、
 との組織委員会の指摘を俄かに否定することができません。

■FCCJの情けない対応■
 本件では、FCCJは、確信犯的にオリンピックエンブレムを模倣しており、
 組織委員会の指摘に対して、
 オリンピックエンブレムの著作物性を否定するしか
 抗弁(言い訳)のしようがありません。

 FCCJを含むマスメディアは、記事という著作権の塊を取り扱う業種であり、
 もう少し、著作権に対して神経を配るべきではないかと思います。

 自らの記事の著作権を主張するのであれば、
 他人の著作権も尊重すべきだということです。

 我が国の著作権法がパロディに対して許容度が低いことなどは、
 随分と大昔から知られているのですから
 (昭和61年5月30日最高裁判決(パロディモンタージュ写真事件))、
 それを知った上で、ぎりぎりを狙うようにしなければ、
 メディアとして社会的強者と渡り合うことなどおぼつきません。

 今回のようなFCCJのわかりやすすぎる複製行為は、
 黒川元検事長のわかりやすすぎる掛けマージャンのレベルのように思います。

■パブリックドメインの範囲でコロナエンブレムを創れるか?■
 例えば、パワポに標準装備されている◎模様の円環部分を、
 パワポに標準装備されている市松模様で構成し、
 創作性のないコロナの足を加えてみると、以下のようになります。

パワポコロナエンブレム.jpg

 規則正しく配列された正方形からなる単なる市松模様の円環のデザインは、
 パブリックドメインといってよく、周囲にコロナの足を加えても、
 コロナウィルスの形態に基づけば、誰もが創作しうるものであり、
 オリンピックエンブレムに依拠した実質同一物とはいえないでしょう。

 このあたりをベースに一ひねりしたパロディを考えるのもありかと思うのですが。
posted by Dausuke SHIBA at 16:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 著作権

2020年05月17日

「検察庁法改正」問題の文脈で考えるオリンピック関連登録商標の違法ライセンス問題(その1)

 知財と道楽ブログで連載した理科教育の話題が殊の外続いてしまい、
 予告していた表題の話題にとりかかれませんでした。
 ●『理科教育』を弁理士が考えてみた(その1)
 ●『理科教育』を弁理士が考えてみた(その2)
 ●『理科教育』を弁理士が考えてみた(その3)算数で鶴亀算をきちんと教えるべきだ
 ●『理科教育』を弁理士が考えてみた(その4)物理は数学で考えるべきだ
 ●『理科教育』を弁理士が考えてみた(その5)化学は実学に徹すべきだ

 その間に、何と、この地味な「検察庁法改正」問題が、
 ツイッターで空前の1000万ツイートされるほどに国民的話題になり、
 与党・安倍政権がいつものように強行採決できない状況になりましたので、
 この機会に「検察庁法改正」問題に取り掛かっておくことにしました。

■影がどんどん薄くなる東京オリンピックの今日この頃■
● 東京オリンピックは来年(2021年)7月に延期されましたが、
 来年の今頃、この登録商標を見た日本人の頭には何がよぎるでしょうか。
画像16.jpg
 もはや、黒い喪章が「東京2020」を偲ぶかのように、
 思い出すのも憚られるあの禍々しい「東京2020コロナ元年
 が頭をよぎらざるを得ないのではないでしょうか。

●「悪銭身につかず」とはよく言ったもので、
 組織委員会は、2020年までに集めた、本来あぶく銭と言うしかない
 オリンピック関連登録商標の違法ライセンス絡みのスポンサー協賛金4000億円を
 すっかり使い切ってしまったようで、延期大会の実施のために、
 さらに数千億円をスポンサーから調達しなければならないようですが、
 未だに費用負担の押し付け合いをIOCとしているようです。

 これが本当に「公益事業」についての「公益団体」の振る舞いなのか、
 その資格が本当にあるのだろうかと思わざるをえません。
 拙著『オリンピック関連登録商標の違法ライセンス問題の解決策

●組織委員会の会長による今になっての言い草
 「長年続く過剰なサービスなど削減できるところはある。
  もう少し簡素なやり方もあるのではないか

  (2020年4月23日付東京新聞TOKYO Web
 は、いったいどの口が言っているのかということです。

 東京オリンピックは元々3000億円程度の予算でコンパクトに行うことを表明して
 立候補していたのですから
 (時の話題〜平成19年度第27号(H19.10.31調査情報課)〜)、
 その通りにしていれば、かき集めたスポンサー協賛金4000億円の残り金で
 生活資金にも事欠くアスリートへの支援もできたのではないでしょうか。

●さらに、この段になって、延期大会も、TV放映を考慮して、
 スポーツ環境としては考えられる限り最悪の7月の開催を頑強に維持する
 ということで、国民・アスリートを無視した利権競技大会を貫徹するわけで、
 これでは、追加予算が数千億円かかるというのも無理はありません。

●東京オリンピックは、できる限り汚点を残さないよう、
 開催権の名誉の返上をして(開催都市の判断でできるようです
 (2020東京オリンピック中止はあり得る? 過去の中止、返上例は))、
 1940年の幻の東京オリンピックと同様に歴史に名を残すべきです。

■検察vs官邸 仁義なき戦い■

 「検察庁法改正」問題とオリンピック関連登録商標の違法ライセンス問題において
 現政権の振る舞いが酷似していることについてお話しようと思っていますが、
 今回は、まず「検察庁法改正」問題についてまとめておきます。
 
●芸能関係者のツイートが何故多かったのか●
 「検察庁法改正」問題が1000万ツイートにまで拡散したのは、
 芸能関係者を中心とする著名人が多くツイートした影響が大きいのですが、
 例えば、ある歌手のツイートに対して、
 「歌手やってて、知らないかも知れないけど」のような
 自らのお馬鹿ぶりを曝け出すような意見を宣う方もおられるようです。

 芸能人を始めとする創作活動をされる方々は、
 見掛けのキャラクターは別として、本当に頭が悪くては、
 生き馬の目を抜く芸能世界で生き抜けません。

 歌手活動をしていれば、普段は、目の前の仕事で手一杯であり、確かに
 「歌手やってて、知らないかも知れないけど」状況があったかもしれません。

 しかし、コロナ禍の下、芸能人は仕事のキャンセルが続き、
 芸能活動をしようにもできない状況に置かれる一方で、
 自身を取り囲む社会の状況に、落ち着いて接する時間ができた筈で、
 その芸能人の状況の理解力は、多くの場合、
 この自らのお馬鹿ぶりを曝け出している方よりも遥かに高かったと思います。

 芸能人は大衆を相手とする日常のコミュニケーションツールたるツィッターで、
 いくらでもツイートできますから、1000万ツイートは、
 コロナ禍における芸能人の日常の中で、
 自然に必然的に拡散したと考えた方が良いと思います。

 政権は、ネットコミュニケーション制御に自信をもっていた筈ですが、
 政権のネットスキルを遥かに超えた状況に直面したというところでしょう。

 検察庁法改正の内容は、今月(2020年5月)に入って、
 新聞・メディアで山のように説明されていますので、
 ここでは、詳細な説明はせずに関連サイトにリンクしながら、
 図解して考えてみたいと思います。

●仁義なき戦い第1話:現行法下での検察庁の思惑●
 検察庁は、行政組織の中では極めて独立性が強く、
 人事も、検察庁の意向がほぼ絶対的に尊重されてきました。

 現在の検察庁トップの稲田検事総長は、
 東京高検の黒川検事長の定年退官(2020年2月7日)後に、
 名古屋高検の林検事長を当て、
 自身が早期退任して、林検事長を次期検事総長にする予定でした
 (稲田検事総長が退官拒絶、後任含みで黒川氏に異例の定年延長)。

 図解するとこのような感じになります(クリックすると鮮明に見れます)。
@検察庁法改正.jpg

 稲田検事総長の当初の目論見では、
 話題の黒川さんが検事総長になれる可能性は全くなかったということです。

●仁義なき戦い第2話:閣議決定後の官邸の思惑●
 しかし、官邸はどうしても黒川検事長を検事総長をさせたくて、
 まずは、閣議決定して黒川検事長の定年を延長し、
 次に、稲田検事総長に対して、早期退任を勧奨し、
 検事総長の後任を黒川検事長にすることを迫ったのです。
 官邸の思惑通りにいけば、以下のようになるはずでした。
A検察庁法改正.jpg

 黒川さんは、2020年2月7日に定年になるはずでしたが、
 官邸は黒川検事長の半年間の定年延長を閣議決定して、
 稲田検事総長が、黒川さんの延長定年前に退任してくれたら、
 検事総長になることができたはずでした。

●仁義なき戦い第3話:閣議決定後に実際はどうなりそうだったのか●
 ところが、官邸から早期の退任勧奨を迫られた稲田検事総長は、
 当然のことながら激怒し、退任勧奨を拒絶しました。
 その結果、稲田検事総長が定年(2021年8月13日)まで、検事総長の椅子に座ることになり、
 黒川さんは、閣議決定でせっかく定年が半年延長されたのですが、
 またまた、検事総長になれない事態になってしまいました。

 この状況を図示すると、以下のようになります。
B検察庁法改正.jpg

●仁義なき戦い第4話:解釈変更による官邸の思惑●
 ところが、官邸はさらに悪知恵を絞り、
 国家公務員法第81条の3に定める最長3年間の定年延長規定を、
 本来、国家公務員法の特別法たる検察庁法が適用される検事に適用する
 という奇策を「解釈変更」と銘打って、
 閣議決定で半年間の定年延長がなされた黒川検事長の定年を、
 さらに3年間の定年延長に代えてしまいました。

 その結果、黒川検事長は、
 稲田検事総長の定年時期を超えて検事長を継続できるので、
 稲田検事総長が定年退官した際に、内閣の判断により、
 検事総長に昇格できることになったわけです。

 この状況を図示すると、以下のようになります。
C検察庁法改正.jpg

●仁義なき戦い第5話:検察庁法改正による官邸の思惑●
  しかし、黒川さんは、検事総長になれたとしても、
 すぐに検事総長の定年年齢である65歳になってしまうので、
 黒川さんに検事総長を末長く続けて欲しい官邸は、
 定年年齢の60歳から65歳への引き上げを内容とする国家公務員法の改正に合せて、
 検察庁法の方も、役職定年制を導入し、内閣が判断した場合、
 役職定年をさらに3年間延長できるとする法改正案を提出してきたのです。

 これが、現在大騒ぎになっている「検察庁法改正」案です。
 
 「検察庁法改正」案を黒川「検事総長」に適用すると、
 黒川「検事総長」の役職定年65歳は、内閣の指定により68歳まで延長できます。

 この状況を図示すると、以下のようになります。
D検察庁法改正.jpg
 なお、さらに再延長の規定も適用すると、
 黒川「検事総長」の役職定年は70歳まで延長できるという話もあります。


■根本的な問題■

 検察vs官邸の検事長の定年延長を巡る仁義なき戦いは、
 官邸の思惑通りにいけば、
 黒川さんが検事総長に長い間座っていられるようになり、
 一見、官邸の勝利に終わるかのように見えますが、
 この戦い、まだまだ続きがあり、勝負の行末は予断を許しません。

《違法人事が解消できないという問題》
 報道や識者のコメントを読んだり聞いたりすると、
 「検察庁法改正」が成立してしまうと、
 官邸がここまで行ってきた「閣議決定」「解釈変更」も含めて、
 黒川さんの役職延長が全て合法化されてしまうような気がしてしまうのですが、
 「検察庁法改正」施行は、まだかなり先の2022年4月ですので、
 さすがに改正法の効力は2020年の「閣議決定」「解釈変更」には及ばず、
 「閣議決定」「解釈変更」が改正検察庁法により合法化されることはありません。

 従って、もし、2020年現在の法制度下で、「閣議決定」「解釈変更」による、
 黒川さんの役職定年の延長に法的根拠がなく、違法人事であれば、
 黒川さんは法的裏付けが全くないまま、
 検事長を継続し、検事総長になるということになってしまい、
 その結果、黒川「検事長」、黒川「検事総長」として行った決済文書は
 全て無効になるという極めて深刻な状況に陥ります。

 この状況を図示すると、以下のようになります。
E検察庁法改正.jpg

 実際に、官邸による「閣議決定」「解釈変更」は、ほぼ確実に違法と言えます。

● 内閣は法の枠内で政令を制定できても法を制定したり改正することはできません。
 従って「閣議決定」しても法の実体規定に対して何の法的効力も生み出しません。

● 特許法は、一般法である民法の特別法であり、
 特許法に規定のない事項は民法に従いますが、
 特許法の規定は民法に優先して適用されます。

 検察庁法が、一般法である国家公務員法の特別法であり、特許法と同様に、
 検察庁法に規定のない事項は国家公務員法に従いますが、
 検察庁法の規定は国家公務員法に優先して適用されることは
 法制度のルールであって、ここが崩れれば、
 特許法の下で仕事をする弁理士はどうしてよいのかわからなくなります。

 従って、法務省が行った「解釈変更」は脱法的といって言い過ぎではありません。

● 法務省が行った「解釈変更」が如何に脱法的かということは、
 本多平直衆院議員山尾志桜里衆院議員小西ひろゆき参院議員が、
 議論し尽していると言ってよく、
 森法相の答弁がボロボロであったことからも明らかです。

 さらに、郷原信郎元検事が、本問題をダメ押し的に総括しているので、
 参考にして下さい。

● 法律の解釈は、誰でも自由に主張することは可能であり、
 内閣・法務省が勝手な解釈をすることは法上禁止されている訳ではないので、
 最終的には、司法の場で争って、裁判所の判断で確定することになります。

 しかし、仮に内閣・法務省の解釈が裁判所で否定されれば、
 黒川「検事長」・黒川「検事総長」の決済文書が全て無効になり、
 その間の検察行政が崩壊してしまうので、
 検察行政をそのような不安定な状態に陥れる非常識なことは、
 これまで行われておらず、過去の内閣・法務省は、国会で、
 現政権ほどの露骨な脱法的な振る舞いはしてこなかったのです。

《仁義なき戦いはまだまだ続く》
 『検察vs官邸 仁義なき戦い』は、現在、
 『広島死闘篇』『代理戦争篇』『頂上作戦篇』などが展開中で、
 今後の成り行きが注目されます。

2020年03月21日

「桜を見る会」問題の文脈で考えるオリンピック関連登録商標の違法ライセンス問題

 本業が立て込んでしまい、昨年(2019年)12月14日以降、
 五輪知財ブログの更新がなかなかできませんでした。

 そのわずか3カ月の間に、
 桜を見る会→検事定年延長→コロナ騒動→東京オリンピック中止・延期騒動
 と日々の激変が続き、世の中が様変わりしてしまい、
 社会と直結する五輪知財ブログの世界に久々に復帰すると、
 浦島太郎になったような気分になります。

 IOCファミリーによる
 オリンピック関連登録商標の違法ライセンス問題については、
 昨年(2019年)、論文掲載→国会質疑→東京新聞報道がされたにも拘わらず、
 この五輪知財ブログで言及される以外は、
 メディア・ネット上ではシーンとした静寂な状態だったのですが、
 「桜を見る会」「検事定年延長」問題の事件構造が白日下に晒された結果、
 オリンピック関連登録商標の違法ライセンス問題が、
 ほぼ同じ文脈において理解できることが解り、仲間が増えたようで心強い?
 と妙な感慨に浸っています。

 今回は、「桜を見る会」問題の文脈で、
 オリンピック関連登録商標の違法ライセンス問題を考えてみます。

■「桜を見る会」問題との共通点■

A.問題の長期にわたる公然性
《桜を見る会》
  桜を見る会は、1952年(昭和27年)から連綿と続いてきた政府の行事ですが、
  社会的貢献をした方々を招待して労をねぎらうという行事の本来の趣旨が、
  第2次安倍政権の2013年から、
  本来の趣旨からみると?マークの付く招待者が急増しエンタメ行事化したことが
  桜を見る会を一大エンタメとして報道するTV中継や、
  参加した関係者によるSNSへの投稿記事等によって、
  国民に対して違法感覚のないまま公然と知られるようになりました。

  その一方で、昨年(2019年)11月に、田村智子参院議員が、
  このようなエンタメ行事化した桜を見る会を国会質疑で取り上げ、
  公然実施状態そのものが証拠となって、
  公文書管理法・公職選挙法・政治資金規正法違反が強く疑われる
  大問題に発展してしまいました。

《オリンピック関連登録商標の違法ライセンス》
  オリンピックは、1970年代まではアマチュアリズムを堅持して、
  精神的理念を前面に出した崇高な国際的行事としての面目を維持しましたが、
  商業化の進展に伴い、1980年代以降は、オリンピックビジネスと化し、
  利権に群がる輩とそれを利用するIOCによる
  精神的理念があるとは到底思えない運営が前面に出てきました。

  IOCのオリンピックビジネスの中心が、1980年代以降、現在に至るも、
  TV放映権を巡る利権であることは、コロナウィルスの世界的流行による、
  東京オリンピックの中止・延期騒動であからさまになったのですが、  
  TV放映権と並行して、
  アンブッシュ・マーケティング規制と呼ばれる知財活用利権を徐々に確立し、
  2000年代以降は、オリンピックビジネスの大きな柱となりました。
  
  知財活用利権の中でも、アンブッシュ・マーケティング規制を支える、
  各国の商標制度を利用した登録商標のライセンスによる資金獲得は、
  IOCのオリンピックビジネスの柱の一つとなり、
  今回の東京オリンピックでは、組織委員会の予算の中で、
  登録商標のライセンスを受けたスポンサー企業によるライセンス料は
  4000億円程度を占めるといわれるまでになりました。

  オリンピック関連登録商標のライセンス活動は、IOCファミリー自身が、
  オリンピック憲章・開催都市契約・大会ブランド保護基準により公然と表明し、
  多くのマスメディアを含むスポンサー企業による
  オリンピック登録商標のTV等メディア、屋外広告、商品への使用により、
  国民の面前で公然と違法感覚なく実施されてきました。

  その一方で、昨年(2019年)3月に公表された私の論文
  『オリンピック知財のライセンス活動の商標法上の位置付け』で、
  このようなオリンピック関連登録商標のライセンス活動は、
  公然実施状況そのものが証拠となって、
  1960年(昭和35年)に施行された商標法(31条1項但書)に違反し、
  その結果、ライセンスビジネスが本格化した2000年代以降に限っても、
  スポンサー企業は、長期に渡り商標権侵害状態に置かれていたことが
  指摘されました。

B.当事者の対応
《桜を見る会》
  公文書等の証拠の廃棄・非開示によって、
  当事者自らは身の潔白を積極的に証明しようとしていないことは、
  国会質疑・野党合同ヒアリングなどで明白になっており、
  このことが国政調査権に基づく国会での問題追及を阻み、
  問題の根本的解決を難しくしています。

《オリンピック関連登録商標の違法ライセンス》
  私の論文での指摘、小川敏夫参院議員による国会質疑(00:51:28-1:15:30)、及び
  東京新聞の取材に対して、当事者たるIOC及び組織委員会は
  「法に沿って適切に契約している」
  というだけで、一度もきちんとした反論をしたことがありません。

  但し、オリンピック関連登録商標のライセンス活動の違法性は、
  IOCファミリーとスポンサー企業の契約内容が開示されなくても、
  契約内容に関係なく、
  IOCファミリーが登録商標のライセンス活動を公表し、
  スポンサー企業の登録商標を公然と使用している外形から、
  客観的に証明されてしまうので、当事者の積極的な情報開示の必要がなく、
  この点は「桜を見る会」問題と大きく異なります。

■「桜を見る会」問題との相違点■

A.違法規模のスケール
  桜を見る会は、毎年1回の国費の支出が数千万円で、
  通算でも数億円程度の金銭的スケールですが、
   
  オリンピック関連登録商標の違法ライセンスでは、
  今回の東京オリンピックだけでも、
  スポンサー企業が支払うライセンス料は4000億円程度あり、
  スポンサー企業による登録商標の違法使用が我が国全体に行き渡っている
  ことを考えれば、違法規模が桁違いに大きいことがわかります。

  なお、中身の問題性の軽重は違法規模のスケールの大小には関係ないのですが
  話題の社会的広がりは「桜を見る会」問題の方がはるかに大きく、
  違法規模とのバランスがとれていません。

B.話題の社会的広がり
《桜を見る会》
  「桜見る会」問題は、5年前頃の「森友学園」問題に比べて、
  当事者からの情報開示が少ないにも拘わらず、
  「森友学園」問題よりも当事者の顔がよく見えるように思います。

  それは、5年前に比べて、
  マスメディアの取り上げ方は決して大きいとはいえないのですが、
  INでの情報発信が質量ともに格段に大きくなったためと思われます。

 ●まず、YouTubeで広く視聴された田村智子参院議員の国会質疑が、
  本質にまっすぐ届く非常に優れた内容であったことが挙げられます。
  ・田村智子参院議員の質疑

 ●次に、内閣官房の中枢を担う官僚に対する野党合同ヒアリングが、
  粘り強く続けられ、その全てがINで公表されたため、
  野党議員の論理的追及の正当性と、官僚答弁の低次元の非論理性が、
  視聴者があからさまに比較できてしまう状況が発生しました。
  ・「桜を見る会」野党追及本部が28回目のヒアリング(2020年1月23日)

 ●専門家も、野党合同に伴い、相互の連携が緊密になり、
  YouTubeを駆使して、様々な切り口で問題の解析を行い、
  「森友学園」問題以来、連続する「桜を見る会」問題を含む様々な問題が、
  現政権の性格に起因することが共通するとの認識がつくられており、
  法治の崩壊を憂う弁護士の有志が声を上げる状況もあります。
  ・国会パブリックビューイング 底が抜けた「桜を見る会」答弁
   ゲスト解説・辻元清美(立憲民主党) 2020年2月10日  
 ●さらに、非専門家YouTuberが、「桜を見る会」問題ウォッチャーとして、
  国会質疑や野党合同ヒヤリングなど見る時間のない勤労者に対して、
  YouTub上で解りやすい番組を提供するという状況も生まれています。   
  ・毛ば部とる子ラジオ 
  ・哲学入門チャンネル

《オリンピック関連登録商標の違法ライセンス》
  それに比べて、オリンピック関連登録商標の違法ライセンス問題は、
  昨年の論文掲載・国会質疑・東京新聞報道によって、
  将来に向けて記録として残る状況にはなったものの、
  話題の社会的広がりは、表向きはほとんど感じることができません
  (水面下で広がっているのかもしれませんが)。

  その原因は、4つあると考えています。

 @小川敏夫参院議員に続き、国会質疑で取り上げる国会議員が続かなかった。

  ⇒ 弁理士資格を有する国会議員は、
    例えば、立憲民主党の菅直人衆院議員・櫻井周衆院議員がおり、
    これらの議員は、同じ立憲民主党の小川敏夫参院議員が国会質疑した
    違法ライセンス問題を知っている筈ですが、
    何故、何もアクションを起こさないのか不思議です。

 A東京新聞以外のメディアが、違法ライセンス問題を完全に無視した。

  ⇒ メディア自身が、違法ライセンスを受けるスポンサー企業であるためで、
    戦前の御用メディアと何ら変わらず、恥を知れ! 
    ということでありましょう。

 B商標権という見えない財産権に対して、
  その貸し借りの違法性(違法ライセンス)と、
  それが毀損されるということ(侵害)が、どうにもこうにも抽象的過ぎて、
  非専門家にはピンとこない。

  ⇒ 知財制度が我が国の産業に今一つ浸透しない根源的な問題ともいえます。
    
 C商標制度の専門家の質が低すぎて、専門性のある社会的な情報発信ができない。

  ⇒ 何とも情けない話なのですが、
    弁理士が世間から浮き上がって必ずし相手にされていないという状況とも
    深く関係するところです。

■商標制度の専門家の質が低すぎることについて■

 オリンピック関連登録商標の違法ライセンスに関する
 論文掲載・国会質疑・東京新聞報道に対して、
 専門家及び非専門家による表立っての反応は数えるほどしかありません。
 ・小川参院議員(00:51:28-1:15:30)
 ・友利昴氏(2019年3月28日東京新聞こちら特報部)
 ・玉木正之氏「玉木正之公式WEBサイト」(2019-3-28)
 ・ちきゅう座「オリンピック違法ライセンス問題」

 私は特許分野の弁理士で、以前は商標分野にそれほど興味も思い入れもなく、
 一昨年(2018年)に、特許庁の広報雑誌で、
 登録商標を活用するNPO法人は商標法のライセンス禁止条項に注意されたし
 なる記事を読んで「エっ・・・」と気が付くまで、恥ずかしい話ですが、
 IOCファミリーによる大規模な違法ライセンスのことなど全く知らないまま、
 ノーテンキに佐野研二郎氏のエンブレム騒動を楽しんでいた口であり、
 当時は、日本中の弁理士・知財系弁護士が同じ状況であったろうと思っています。

 そうはいっても、
 昨年(2019年)3月と9月に弁理士会誌に掲載された私の論文については、
 商標系の弁理士・弁護士は読んで何か感ずるところがあったのではないか、
 と昨年までは思っていたのでした。

 しかし、昨年から今年にかけて、商標系弁理士・弁護士に接する機会があって、
 意見交換をすると、弁理士会誌に掲載された私の論文を読んでおらず、
 ライセンスの話をするための基礎となる商標法の権利条項について、
 弁理士受験レベルの知識が頭から抜けてしまっているような人もいたりして、
 これでは、おそらく私の論文を読んでも理解できないのではないか、
 ということで、社会への情報発信どころではないことがわかってきました。

 この点については、例えば、
 友利昴氏を講師として迎えて行われた弁理士研修の講義で、
 友利昴氏の講義内容を知財制度の観点から法的に読み解くべき、
 弁理士会側で用意した知財弁護士の講演内容が
 あまりにトホホではないかという研修聴講記にまとめた通りです。
 『アンブッシュマーケティング規制に関する弁理士研修(その2)
  弁理士会の研修レベルが低すぎる』

 オリンピック関連登録商標の違法ライセンスの話を、
 他士業(弁護士・行政書士・公認会計士)の先生方にすると、
 社会的な問題意識を持たれている先生方が多く、
 商標制度の全くの専門外でも、問題の本質をすぐに見抜いて理解してくれます。

 商標系弁理士・弁護士は、他士業の先生方と同じように文系士業であり、
 様々な法的制度の中で活動する顧客を相手にしているにも拘わらず、
 狭い商標制度の枠内で、社会的な問題意識の底が浅く、
 マニュアルワークだけで仕事をしている場合が多すぎるのではないかと、
 最近は思ったりしています。

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 ということで、私の方では、商標系弁理士・弁護士にはあまり期待せずに、
 今年もマイペースで五輪知財を考えていこうと思っています
 (オリンピックが延期されれば、考える楽しみがしばらく続きます)。

 次回は、「検事定年延長」問題の文脈で考えてみたいと思います。